第72話 証言
「それで今はどうなったんだ」
康生がなんとなく呟く。
ここでようやくエルと時雨さんは先ほどの出来事について思い出す。
「そ、そうだ!今広場の建物が爆発してて!」
「何者かは分からないが、おそらく都長に恨みを持っているがテロを起こしたと考える」
二人の言葉を聞き、康生広場中央にそびえ立っていた建物を見上げる。
「ほんとだ……」
さっきまであった建物が爆発でなくなっていることを康生が気づく。
「一体誰が……」
康生がそう呟くとどこからか足下に一枚の紙が落ちてきた。
「これは?」
真っ先に気づいた時雨さんは紙を拾い上げる。
康生とエルも時雨さんに近づくようにして紙をのぞき込む。
「これは!」
すると時雨さんは突然大きな声をあげる。
しかし康生とエルはただ名前が書いてある紙を見ても何も思うことはなかった。
「これって一体……」
康生が尋ねよとした瞬間、広場に響くように声が聞こえた。
「あー。あー。聞こえますかー?」
「貴様は誰だっ!?」
その声に真っ先に反応したのはやはり都長であり、おそらく声の発信源である建物の上を見上げる。
「この声……」
康生は考えた。この声をどこかで聞いたことがあるような気がしたからだ。
しかしすぐに思い出せないまま、声はさらに言葉を続ける。
「え〜、今皆さんが持っている紙はそこの都長の部屋にあったものです。しっかりと都長のサインもあるので都長のもので間違いないでしょう」
(都長のサイン?)
声を聞いた康生とエルはすぐさま紙を見直す。
すると一番下になにやら名前のようなものが書いてあるのを見つけ、おそらくそれが都長のサインなのだろうと思った。
「どうして貴様がそれをっ!!」
都長は果敢に建物の上に向かって声をあげる。
しかし声の主は都長の言葉には全く耳をかさず、周囲の反応を伺うように静かになる。
声が聞こえなくなったことで康生はようやく周囲のざわつきを耳に入れる。
「おいおい、これって……」
「こ、この名前……」
どうやら町の人もこの紙を見て何かを感づいたようだ。
「そうですっ!」
そして町の人のざわめきに合わせるように声がまた鳴り響く。
「この紙のリストに書いてある紙は全てこの町で行方不明になった少女達!そしてリストの下には契約内容、そして都長のサイン!つまりここから導き出せることはスバリ、行方不明の少女たちは皆都長が何者かに手渡しているということ!」
声が響き終わると同時に町の人々は一斉に都長へ視線をずらす。
その視線は今までの怯えたものではなく、明確な敵意をむき出した目だった。
「まさか都長がこんなことをしていたなんて……」
「ま、待て!わ、儂はそんなもの知らん!!」
だが都長は真っ向から否定する。
このまま都長が否定を続けて長引くのかと思われた時、エルが大きく息を吸う。
「これは本当です!私も都長に捕まった時に私をどこかに送ると話していました!」
「なっ!ど、どうしてお前がそれをっ!」
エルの証言、そして最後の都長の言葉により、この事実は本当だということが証明されたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます