第58話 罪状

「今日はその男の罪を裁きにきた」

 都長のその一言によって広場はざわざわと困惑の声に包まれた。

「つ、罪とは一体どのような罪なのでしょうか?」

 そんな中、時雨さんは果敢に都長に問いかけをする。

 そして当然だが康生は罪など犯した事など何も心当たりがない。

 それでもこうして都長がこの場に来ていることからどうしても康生は緊張の表情を浮かべてしまう。

「おい」

 都長が一言隣に立っている男に声をかける。

 すると男はあらかじめ手に持っていた紙の封筒を開け中から一枚の紙を取り出す。

「今から罪状を読み上げる」

 前に掲げられた紙に自然と皆の視線が動く。

「汝は、民衆を前にして虚偽の発言をし民衆を洗脳しようとした。民衆の心を偽った罪は重し。よって汝を死罪とする。――以上が罪状と刑罰とする」

 男が放った言葉に広場に集まった人々は皆息を呑む。

 やがて広場の視線は罪状の紙から数メートル離れたところに移動する。

 その視線が集まった場所には、困惑したような驚いたような、複雑な表情を浮かべる康生が立っていた。

「何か弁明はあるか?」

 最後に一言男は言い放つ。

 その威圧感に康生は何も言えずただじっと立ち尽くすことしか出来なかった。

 本当だったらすぐにでも違うと否定を入れるべきなのだろうが、男が放つ威圧感、それに殺気も混じり康生は何も反論をすることが出来なかった。

「康生……」

 そして隣に立っている時雨さんでさえも、都長相手には流石に言い返すことが出来ないのか、じっと見守ることしか出来ずにいた。

 そしてそうなれば当然、それを聞いていた人々は康生に疑惑の目を向けることになる。

 それは康生自身にも痛いほど感じられた。

「ふっ。それじゃあ連れていけ」

 やがて都長が命令すると、隣に立っていた男が罪状を戻しゆっくりと康生に近づく。

 誰もが何も言うことなく見守る中、康生はやはり近づいてくる男に恐怖に萎縮していた。

「待って!」

 しかしそんな中、男と康生の間にエルが飛び出す。

「康生は嘘なんて一言も言っていないわ!」

 誰もが静観している中、エルただ一人が声をあげて叫んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る