第53話 米と水
「これが見えないか!!」
康生を声を荒げて手を高々と空にあげる。
「あ、あれは……」
康生の持っている物を見て誰か一人が小さく呟く。
そして周りの人も同様に康生の手を凝視する。
再び静寂に包まれた空気を感じ、康生はそのまま口を開く。
「これはおにぎりだ!俺は米を作る技術を知っている!」
先ほどの話を聞いた限りだとこの街の人々はろくに米を食べていない。
だからこそ、おにぎりという日本人ならではの米の食べ物を見せることによる一気に皆の注目を集める。
これだけでも十分暴動が終わってくれるだろうが、康生はここで終わるつもりはなかった。
何故なら米を作るには何より綺麗な水が必要だからだ。
「そしてこれ!俺は水を綺麗に作る事も出来る!」
おにぎりを片手にもう片っぽの手でペットボトルを取り出す。
その中には綺麗で透き通った水が入っている。
これも今の状況じゃそうそう手に入れることの出来ない代物だろう。
「この二つの技術を皆に教える!だから後は皆の手でこの食料を勝ち取ってくれ!」
康生が言い終わると辺りは一瞬の静寂に包まれる。
だが次の瞬間、
「オォーーー!!!」
辺りを雄叫びが包み込む。
皆が拳をあげ雄叫びをあげる。
そして熱気が辺りを包み込む。
「あなた様の名前は何ですか!」
そんな雄叫びの中、どこからともなく声が届いた。
康生は名前を名乗ろうと口を開くが、周りの声で全く届く様子がなかった。
するとそれに気づいた時雨さんが康生の前に出てきた。
一体どうするつもりなのかと見守っていると時雨さんは突然手に持っていた長刀を思いっきり叩きつけた。
ガンッ!
すると先ほどの歓声が嘘のようにやみ、視線が時雨さんへと集まる。
「彼の名前は上村康生!康生はこれから様々な技術を持って私たちをこれから助けてくれる!そして康生は力もある!そもそも今私がこうして生きているのは康生があのドラゴンを退治してくれたおかげなのだ!」
時雨さんは高々と宣言した。
(ちょ、ちょっと時雨さん!?)
名前だけじゃなく、少し余計な事をしゃべった時雨さんを康生は止めようとした。
しかし一度放たれた言葉は取り消すことができるわけもなく、皆の耳にしっかりと届いていた。
「ウォーーー!上村康生!彼は俺たち、いいや。この世界の英雄だ!」
その言葉を境にその場では康生コールが鳴り響いた。
英雄と呼ばれすぐに訂正しようとした康生だが、もう康生の言葉は届くわけもなく辺りを雄叫びが埋め尽くす。
「し、時雨さんっ?」
だから康生は諦めて時雨さんに訴える。
「まぁ、いいじゃないか康生。君はそれほどの存在なのだから」
そう言って時雨さんはにっこりと微笑んだのだった。
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