第43話 盗聴

「――そ、そろそろいいですか?」

 しばらく頭を撫でていた康生はそっと口を開く。

「あっ、あぁ構わない!」

 口調はいつものクールな口調に戻った時雨さんだったが、今の康生にとってその口調はただの違和感にしかならなかった。

 だけど時雨さんはクールな態度をやめようとしない所を見ると何かしらの思いが自分の中にあるのだろうと感じた康生は深く詮索するのをやめる。

「じゃ、じゃあそろそろ部屋に戻りますね?」

「あ、あぁ!」

 やっと解放されたと一安心した康生はゆっくりと立ち上がってそのまま扉を開ける。

「く、くれぐれも今の事は内緒だぞ!」

 再度釘を刺された。

「分かってますよ」

 しかし康生自身は言いふらす気などさらさらないのですぐに返事を返す。

 そしてそのまま扉を閉めた。

「はぁ〜……」

 扉を閉めた瞬間に康生は深く、それでも時雨さんには聞こえないようにため息を吐いた。

「可愛すぎるでしょ……」

 そしてボソリと小さく呟く。

 正直康生は今の今まで必死に自分の本能を抑制していた。

 それもそうだ。十年間も引きこもっていたせいで人との関わりが全くなかった康生がいきなり大人の女性の部屋に入ったのだ。

 しかも時雨さんはどうやら着痩せするタイプらしく、鎧の上からでは確認出来なかった胸の膨らみが露わになっていた。

 自分の部屋なのか薄着になっていた時雨さんを見ただけで相当ヤバかったのにあんな可愛い姿を見てしまい、さらには頭まで撫でてしまうなど康生の理性は限界に近かった。

 だからこそこうして無事何も起こすことなく部屋を出られたことは康生にとってドラゴンを倒した時以上の戦いだったのだ。

『よく我慢されましたねご主人様』

「なっ!お、お前もしかして今のずっと……」

『当然です。私はずっとご主人様のそばにいますから』

 とAIが康生の懐からしゃべる。

 ――正直今の言葉が普通の女の子から言われたならば嬉しいのだが相手はAI。ましてやあのマリンなのだ。正直恐怖しか感じない。

『ざ、ざざ……』

 なんて思っているとふとAIからノイズ音が聞こえる。

(もしかして壊れたか?)

 なんて淡い期待を抱いた康生だが、すぐさまその思いは絶望に変わる。

『「こ、これでいいですか?」「あ〜〜幸せ〜……」』

 すると先ほどの康生と時雨さんの会話が流れ出した。

「おっ、お前もしかして……!?」

『カチャリ。――勿論全て録音済みです』

(な、なんて事を……!!)

 康生は思わずその場にひざまずく。

『時雨さんも面白いですけどご主人さまも面白いですね。これでいいですか?なんて言いながら鼻息荒くして頭撫でるなんてただの変態ですよ』

「そ、それは……!」

 すぐさま反論しようとした康生だがその次の言葉が出てこなかった。

「終わった……」

 AIに新しい弱みを握られて康生は力なくその場に倒れ込んだ。

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