第21話 どうして

「それはこっちの台詞だよ。――どうして化け物をわざわざ見逃さないといけないんだよ」

 男は睨むように康生を見る。

「それでも今こいつらは戦う気なんて無かっただろうが!それなのにどうして後ろから狙うなんて卑怯な事をしたんだよ!」

 康生も負け時と睨み返す。

「は?卑怯?そんなの関係ねえよ」

「関係なくない」

 そうして康生と男はじっとお互いを睨み続ける。

 お互い一歩も引く気はないようだ。

「ちょ、ちょっと落ち着いて!」

 そんな二人を見かねてかエルが二人の間に入る。

「邪魔しないでくれエル!こいつはあいつらを……!」

 戦う気がない奴に怪我をさせた事を何より康生は怒っている。

 だがそんな思いがエルに伝わっていたのかすぐに康生の背後を指さす。

「……後ろ?」

 エルの指に導かれるように康生の視線が後ろに向く。

「キィッ」

 すると先程攻撃されていた異世界生物がピンピンと立っていた。

「なっ!いつの間に!?」

 康生の視線の先を確認した男は声を荒げる。

 だがそんな男には見向きもせず、エルは康生に説明をする。

「とりあえず私が回復させてあげたから怪我はもう大丈夫――って、え?」

 とそこまでエルが話した瞬間、康生がいきなりエルを抱き寄せる。

 エルは突然の事に頭を混乱させている。

 それでも康生に抱き寄せられているという事実を確認した瞬間ポッと顔が赤く染まる。

「――いきなり何をする?」

 そんなエルの頭上では康生が怒ったように声をあげる。

 その声を聞きエルはすぐさま後ろを確認する。

「っ!」

 すると、先程までエルがいた場所には一つの短剣が存在していた。

「何って、そいつは化け物の仲間なんだろ?化け物をあんなすぐに回復させられる奴なんだからきっとそうなんだろ」

 そうしてエルは遅れながら気が付く。自身の命が狙われていたことに。

 さらにそれを康生が守ってくれたことに。

「――どうしてそんなにも異世界人を殺そうとする」

 康生の心の中で怒りを爆発させまいと必死に自分を抑える。

 ここで感情で爆発させてしまったら、康生は目の前の男を攻撃してしまうからだ。

 そうしたらエルが言っていた人と異世界人との平和が遠のいてしまう。

 だからこそ康生は必死に感情を抑え、目の前の男と対話を試みようとする。

「――逆に聞きたい」

 だがそんな康生の思いに反し男はあくまでエル、それに康生に対してまでも敵対心を宿らせたまま口を動かす。

「お前はどうして化け物達を守ろうとする?そいつらは俺たちの世界を滅ぼした存在なんだぞ?」

「…………」

 康生は咄嗟に言い返す言葉を出すことが出来なかった。

 それは男の気持ちが少しだけ理解できてしまったからかもしれない。

 だってこの世界を異世界人にこんな景色にされてしまったら怒るのも分かる。

 だからこそ康生は男に言い返す言葉を思い浮かぶことが出来なかった。

「――だから話し合いましょう」

 そんな康生の代わりにエルがゆっくりと口を開いた。

「私達はたくさんの人を殺した。それは認めます。でもそれは私達も同じ。私達もたくさんの仲間を人に殺された」

 康生が緩めた腕から離れ、エルはじっと男を見つめる。

「でもだからこそ話し合いましょう。ここでまた殺してもその先もまた同じ未来しか待っていない」

 エルは真っ直ぐ男を見据える。

 男はしばらく考えるようにエルを見る。

「…………」

 それから男は構えていた短剣を腰に下ろした。

 それを見てエルは安堵の表情を浮かべる。

 だが次の瞬間、

「危ないっ!」

 エルの体が後ろに突き飛ばされる。

 キンッ。

 その直後に金属と金属がぶつかる鈍い音が響く。

 地面に倒れ込んだエルはゆっくりと正面、音が響いた方を確認する。

「――邪魔するなよ」

 すると前方では短剣を下から振り上げた男の姿とそれを鉄の棒で受け止める康生の姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る