第16話 朝食
「ほ、ほんとうにごめんなさい……!」
「い、いや別にすぐに治してもらったから全然大丈夫だよ」
今朝の一騒動から少し経ち今は二人して机を囲んでいる。
それでもエルはまだ謝ってくるので康生は必死に大丈夫だと言う。
そしてそれと同時に、これから二度とエルを怒らせてはいけないと決意を固めたのであった。
「それより早く朝食にしようか!」
少しでも話題を変えるため、康生は鞄を開く。
それに康生自身、昨日の朝からもう何も食べていないので、お腹がペコペコなのである。
「食事ですか?でも生憎ここには食べる物が……」
エルがキョロキョロと辺りを見渡す。だが当然こんなコンクリートの中には食べ物どこか植物の一本すらない。恐らくそれは外に出ても同じことだろう。
じゃあ一体何を食べるのか。その答えは康生の鞄の中ある。
「安心して、こういう時の為――って言えるか分からないけど弁当を持ってきていたから」
鞄から弁当箱を一つだし机の上に置く。
大きさは普通の弁当箱より少し大きめのサイズで、中身は野菜と白ご飯だ。
「わぁ〜!」
弁当箱を広げると真っ先にエルが顔を覗かせた。
その目はキラキラと輝いており、とても弁当に興味津々の様子だった。
「――ぐぅ〜〜」
と同時にエルのお腹から音が響く。
「あっ、こ、これはっ!」
お腹の音を必死に否定しようとする。
「はっはっはっ、そんな恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。それより俺もお腹空いたから早く食べよう」
そう言って康生はエルに箸を手渡す。
「あ、ありがとう」
初めエルは遠慮したように弁当を眺めていたが、康生が野菜を食べ始めたのを見計らい箸を動かし始めた。
「――異世界人も箸使えるんだね」
器用に箸を使うエルを見て康生は素直に疑問を抱く。
「う、うん。私達の世界もこっちの世界のように食事は箸やナイフ、フォークを使うの。その辺はこの世界と同じ文化みたい」
こっちの世界と同じ文化がある事に驚いた康生はすぐにこれからしっかりと異世界の知識をつけていかないといけないと感じた。
でも、今はエルの幸せそうな表情を見せながら食事をする光景を見ているだけでこちらも幸せになってしまい、とても質問できる様子ではない。
「――それより康生は今まで食事はどうしていたの?」
どうやら食事をする中で、康生が地下での生活でどんな食生活を送っていたのか疑問に思ったらしい。
確かに地下で十年も過ごしているはずなのに、こんな弁当を作るのは不可能だ。
「あぁ。野菜とかは主に室内で育てていたんだよ。米も同様にな」
康生は思い出す、地下室での農作業について。
初めはやり方が全く分からずよく作物を腐らせていた、でもそれも一年が経つ頃にはやっと野菜を実らせることが出来るようになり、二年経つ頃には普通においしい野菜や米を作れるようになった。
そんな話を聞いたエルは一度箸を置いてじっと康生を見つめる。
「私聞きたい。康生がこれまでどうやって生活していたのか」
と康生をじっと見つけながらエルは尋ねた。
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