第4話 天馬の馬車
一方、地上の僕らに襲いかかって来た3体の悪魔を鮮やかに葬り去ったアリアナは、周囲を警戒しつつ僕の前に立つ。
「アル君。大丈夫?」
「う、うん。さっきから助けてもらってばかりだね。ありがとう。アリアナ」
「気にしない気にしない。アル君は私が守るよ! だから何も心配しないで」
「……うん」
う~む。
仕方のないことなんだけど、僕は完全にお荷物になっている。
タリオがあれば3人の手伝いが出来るのに……。
そんなことを考えながら頭上を見上げた。
ミランダとジェネットは器用に空中を飛び回りながら悪魔たちの相手をしている。
ミランダは
黒く燃え盛る炎の球と、光り輝く霧の噴射に圧倒されながら悪魔たちは何とか2人を捕まえようとするけれど、飛行技術にも優れた2人はおいそれとは捕まらない。
そんな様子を見ながらアリアナは
「あの2人って空を飛ぶのも上手いよねぇ。私も飛べたらなぁ。でもねアル君。無い物ねだりしても仕方ないんだよ。人は皆、その時に自分の持ってる武器で戦うしかないんだもん」
「アリアナ……」
アリアナはさっぱりとした表情でそう言うと、いきなり振り返って背後に
「ギャウッ!」
するとそこにはいつの間にか悪魔が背後に迫っていて、アリアナの
そんな悪魔に向けてアリアナは必殺の拳を打ち込む。
「
彼女の下位スキル・
凍てつく拳の一撃を受けた悪魔は一瞬で凍りつき、そして砕け散った。
敵を排除したアリアナは振り返って言った。
その顔は戦いの最中だからか、上気して頬が赤く染まっている。
「わ、私としてはアル君が……隣……てくれ……だけで……ゴニョゴニョ」
「え? 何て言ったの?」
アリアナの声は小さくてよく聞き取れなかったけれど、僕がそう聞き返すと彼女は慌てて首を横に振った。
「な、何でもないよ! あ、あのね。アル君にはアル君の武器があると思う。それをこの旅で見つけられるといいね」
そう言って笑うアリアナの顔に、僕の心は幾分か軽くなった。
そうだ。
戦闘が出来なくても長身女戦士ヴィクトリアの手助けを出来たように、僕にも僕なりに何か出来ることがあるはずなんだ。
早くそれを見つけたい。
早く皆の役に立つ男になりたい。
そんなことを考えながらふと上を見上げると、ミランダとジェネットの反撃を受けてほとんどの悪魔が撃墜され、残った数体の悪魔たちはたまらずに逃げ去っていくところだった。
「コラッ! 逃げてんじゃないわよ! ケンカ売ってきたのはそっちでしょうが! 全滅するまで戦いなさい!」
「ミランダ。深追いは不要です。彼らはもう戦意を失っています」
「チッ! 何が悪魔よ。見かけ倒しもいいところね」
ふぅ。
と、とにかく一難去った。
悪魔たちが逃げ去っていき、僕らはとりあえずの平穏を得たんだ。
でも僕らは馬を失って自力で
上空から降りてきたジェネットが僕の
「私とミランダでアル様とアリアナを抱えて
「私は嫌よ。面倒くさい」
ジェネットに続いて降りてきたミランダが顔をしかめてそう言うと、歩み寄ってきたアリアナが笑顔で言った。
「もう目的地は目の前まで見えてるから、あそこまで歩けばいいんじゃないかな。そんなに時間もかからないと思うけど」
そんな話をしているその時、唐突に僕らの頭上で鐘の音が鳴り響く。
リンゴンリンゴンとそれは荘厳な響きだった。
何事かと上を見上げると、空から数十人にも及ぶ多くの天使たちが舞い降りてきて、その中心には空飛ぶ馬車が華麗に宙を舞っていた。
その壮麗な光景に僕は思わず声を漏らす。
「すごい……」
空飛ぶ馬車を引っ張っているのは翼を生やした純白の
さ、さっきの地味な馬と違って今度のは
そして舞い降りてくる大勢の天使たちの先頭に、さっきジェネットが助けた女の人がいる。
彼女は僕らの元へいち早く降りてきて着地すると、深々と頭を下げた。
「先ほどは助けていただきまして本当にありがとうございました。
そう言うと天使の女性は目を丸くして辺りを見回した。
いや、僕は役に立っていないので、実質3人ですけどね。
そんな彼女にジェネットが歩み寄る。
「ご無事だったのですね。本当に良かった」
ジェネットの言葉を受けて天使の女性は顔を
「あなたと皆様は命の恩人です。そして我が
ミシェルというその亜麻色の髪の女性はそう言って再び頭を下げると、振り返って上空に手を挙げる。
すると上空を旋回していた
「これより天使長様の元まで皆様をお連れいたします。どうぞお乗り下さい」
た、助かったぁ。
これで歩かずに済むぞ。
僕とジェネットとアリアナは互いに顔を見合わせて微笑み合った。
そしてミシェルの言葉に従い馬車に乗り込んでいくけれど、ミランダだけは何だか気に入らなさそうに腕組みをしたまま突っ立っている。
「ミランダ? どうしたの?」
「天使の乗り物に乗るなんて気が進まないのよ。私は自分で飛んでいくわ」
そ、そんな
でもまあ魔女のミランダからすれば天使は対極の存在とも言えるからね。
むしろ悪魔の方が近しいとも言えるんだけど……。
僕は仕方なく天使のミシェルさんに向き直って言った。
「すみません。せっかくのご親切なんですけれど、僕とあそこにいるミランダは自分たちで向かいます」
僕がそう言うとミシェルは驚いた顔を見せたけど、それ以上にミランダが驚きの声を上げた。
「あんたも? 何でよ?」
「だって僕、
僕がマジメな顔でそう言うとミランダは呆れたような顔を見せた。
「はあ? 私に気を
「やなこった」
「何ですって? くっ! 私は飛ぶけど、あんたなんか運んでやらないわよ」
「別にいいさ。歩いていくし」
そう言って槍を
「だ、大事なお客様を歩かせるわけには……」
「気にしないで下さい。これでも
呼ばれたことないけどね。
「チッ! 分かったわよ。私も乗るわよ。乗ればいいんでしょ。だから馬鹿なことしてないでさっさと乗りなさい。まったくムカつく男ね」
根負けしたミランダは僕の腕を取って馬車に乗り込んでいく。
そして車内の窓際の椅子に僕を座らせると、その隣にドカッと腰を下ろした。
そして
「イテテ! い、痛いよミランダ」
「バーカ。あんた程度じゃ私の右腕なんて100年早いわよ」
「わ、分かってるよ。でも右手の小指くらいには……」
僕が負け惜しみのようにそう言うと、ミランダは自分の小指を立ててスッと僕の目の前にかざす。
彼女の細くて白い小指は爪の先まで
「そうね。右手の小指……の爪の中に入った砂、くらいでちょうどいいわよ」
「砂かよ! 体の一部じゃないじゃん! 評価低すぎ!」
僕は思わず嘆息しつつ、向かい側の座席を見るとジェネットとアリアナがクスクスと笑いながら僕らを見ていた。
それを見たミランダは面白くなさそうに
「なに笑ってんのよ。あんたら」
「いえ。別に」
「何でもないよ~」
「チッ! ムカツク奴らね!」
そう言うとミランダは広い馬車内の隅っこの席に腰をかけて、フンッと顔を背けてしまった。
そんな車内の様子などどこ吹く風とばかりに
十分に助走をつけた
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