#020:苛烈だな!(あるいは、ボルトノヴァ/開眼の刻)

「ぶごごごごっごごごごっごごごごごごごごおおおおおおおぉぉぉおおぉおッっ!?」


 唐突だが、溺れかけている。


 気合いを入れて臨んだ「真っ向カード勝負」であったものの、結果として敗北、さらに勝負とは関係のない「ほか2つの要素」でも負けていたために、特殊な効果エフェクトが追加されるってそんなの聞いてねえぞ……


 抗議の声は、全ていきなり「黒四角」の中にせり上がってきた「黒い水」的なものに流し攫われ、あぶくと化して果敢なくも散り去ってしまうのだが。


 足元は先ほどから「沼」状のものに固定されているし、例え足が自由であろうと、幼少期のトラウマからか、からっきし泳ぐことが出来ない俺にとって、正にの窮地(こればっかな気もするが)が襲ってきているのであった……


 渾身の力で、自分の奥底に眠るチャクラ間距離を最大限開かせるように、足首・ふくらはぎ・腿・腰・背中・首を伸び突っ張らからせ、真上に首を直角に曲げたところで何とかギリギリ口先は「水面」に出た。しかして限界も限界。両脚はすでに攣っているし、絶え間なく襲う波に洗われ、妙に生臭い「水」をたらふく飲まされている状況……


「いや……まさかこんなにもクリティカルな一撃が炸裂してしまうとは……こんなこと、見るのも初めてなのだが」


 一方でその細身の体が何故か「水面」に立つようにして浮かんでいるのは何でか分からんが、思わず呆けた素のような声をそのジウ=オーの奴が発している。いや、俺はもっと初めてだよ。こんな、こんな……何だッ!? この状況はぁッ!!


「銀閣さんっ!! カードバトルおあそびをほどほどにしないからこんな目に遭うのですよッ!! ギリギリ状態からの大逆転勝利も確かに外連味たっぷりと言えなくもないですけど、いつか度を外して即死級のを喰らう可能性が多分にあるってこと、忘れないようにココに爪で書いときますからねッ!!」


 ネコルの叱咤も、もっともとは思うものの、もう少しTPO鑑みる素地はあんめえ……ぷりぷりと憤慨しながらも、その猫尻を俺の顔面カオ騎乗せたままで、ほんとに猫爪を出して俺の額に何かを刻み彫り始めた、その小さいながらも確かにジュウであるところのそいつの方に一抹のサイコパスィックな怖ろしさを感じている……と言うかキミの軽めの体重でもこの極限状況下においては紙一重の要因ファクターなんだよ……ととと降りんかいぃぃ……!!


「……まあ、これ以上無い形で布石は打てたわけだが……おとなしく降参すれば、一撃で楽にしてやろう。そのまま力尽き水没し果てるよりはましだろう……それに私の次の手札カードの『心色彩ハートカラー』は、『闇黒ブルー』。このレア闇属性に勝てるカードはそうは無い……そしてそこで負けが決まれば、次の『大波濤』でほぼほぼ完全にこの『空間スペース』はこの『超絶生臭水アッカ・踊レ・狂ウド』に満たされる……しんどいぞ、そんな死にざまは」


 完全に取られたマウントの中、極めて余裕めいた勝者の上からの立ち位置/目線でそんなことを述べてくる黒女ジウ=オーだったが。


 やるなら徹頭徹尾、速攻でやる。そいつが喧嘩の最大鉄則だぁ……勝負途中で勝ちを確信しちまうっつうのは、無意識無自覚で抗えない最大級の「隙」を晒すっていう……


 ……最悪の「悪手」だぜ? (ケレンミー♪)


「……勝ちが見えるからやるとか、負けが見えてるからやらねえとか、そんな先を見据えて、なんてことは人生において全く意味の無えことなんだぜ……」


 急速に肚が座ってきた。いや遅すぎィ、との声が未だ顔面に居座るネコルから漏れ出てくるが、やっぱり俺は追い込まれねえと何も発揮できねえやっかいな性分みてえだ。


「く、唇を水面から何とか、という感じで突き出して酸素を求め喘いでいるこれ以上無い絵面の無様さであるのに……ッ!! なぜそこから紡ぎ出される言葉は、こんなにも私の心を揺さぶるのだ……ッ!?」


 ジウ=オーよ、よく聞け……これしきの無様で男が男たる資質を失うことは断じて無えってことをなあ……(ケレンミー♪)


「……やるからには勝つ、勝つためにやる、そういう気概を持った野郎だけが、結果としての勝ちを拾うもんなのさ……お前は『見えている勝ち』に目が曇っている、判断を……その時点で見誤っている。『そうは無い』とか言ってたが、例え確率0.01%であろうと、必要とされるべき時に鬼引いてくる。そいつこそがまことの『強者』であり最終の『勝者』であるんだよ……」(ケレンミー♪)


 みゃおーん♪ それそれそれそれぇぇッ!! と、俺の顔面上でじたじたと後ろ猫足をばたつかせながらそう興奮するネコルであったが、水面を波立たせるのだ け は や め ろ ッ!!


 「前世」28年の内でさんざ飲まされ続けてきた煮え湯と、ほぼ変わらない(しかも物理的な)キツさの生臭水を食道に、蹂躙されるかの如く流し込まれつつも、俺はまったくこの状況を悲観も楽観もしちゃあいねえ。ここからが、俺の手番ターンだからなぁッ!! と、


<ケレンミ完了ッ!! 超絶カード転送中……オオオオッ!? コレハ……コレハ『SSR確定演出』……ッ!!>


 あれ何か前と違うな……とか思ってる暇は無かった。くるり俺の顔上で半回転し、何故か中腰で震え出したネコルの、俺の目線のちょうど真上に位置する排出器官から、排出するには無理あんだろ的な形態であるところのカード状の物を無理くり『筒状』に丸めた挙句、ひり出そうとしてきているよ怖いよ……


<フヌグウウウウウッ!! フッ!! フンンヌヌヌグググググゥッ!!>


 全精力を傾けているような、そんな渾身のイキみ加減に、嗚呼……俺の知ってた混沌ってまだほんの序の口だったんだな……と、今まさに展開している狂気を目の当たりにして思うほか、今の俺に出来そうなことは無いわけであって。


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