#006:複雑だな!(あるいは、スケール過多/スケジュール過密)
てっきり顔面全面がどろどろのぐちゃぐちゃになっていそうで触れるのも怖ろしかったが、あれほどの熱衝撃を受けたにも関わらず、そして瞬間最大激痛が人生最大でもあったはずであるにも関わらず、恐る恐る指先で確認した手触りは、普通の、剃り残しが点在するいつもの頬の触り心地だった。良かった。しかしてあの謎光線は浴びると死ぬほど痛いので、今後、あの猫に対しては狼藉を働くのはほどほどに自重しよう……と、何とか立ち直りを見せて来た俺の大脳がそう告げて来る。
「っ
猫耳女(外観:ネコ)のそんなヒステリックな叱責を受けつつ、い、いやあいい毛並みですなあ……と締め上げていた首回りを指で撫で擦ってやってたらゴロゴロ音を出してようやく機嫌が直ったようなので、あらためて「今後」について指針をおうかがいする事にした。
「……むこう側に向かえば、ひとつの『街』があります。歩いて日没までには着けることでしょう。まずはそこを目指しましょう」
うん、
今の段階では腹も減ってねえし、喉の渇きもそれほどねえ。カネはねえが、まあ最悪どっかの軒下で寝てもいい。寝てる間に襲われないところが確保できれば上々だ。ん? ……何かそういう襲う危険な「何か」がいるってこと前提で俺も思考しちまってるけど、ほんとにそういう存在がいるものなのだろうか?
「
「『野生動物』とか『家畜』とか、貴方のいた世界でいう『人間』以外の『動物』みたいな感じでの存在ですね。別に倒したところで『お金』とか『経験値』が直で入るわけではないです」
そんな何故か申し訳なさそうな感じで、その実、身も蓋も無いことを言われた。何だろう、俺が想像していた「異世界」と大分違うなここは。というか、こんな
「……じゃあカネとかよ、通貨的なものがあるんだったらそういった先立つものは必要だろ。そいつはどうやって調達するって言うんだ?」
こういった「異世界」においては、まぁもっともな質問と思ったが、
「そこはまあ……諸々のこと……労働なんかに勤しんでその対価として得ることになりますね……」
何でそこまでテンション低いんだ?
「おいおいおいおい。何かえらい他人事みたいな空気を感じるんだけどよぉ、お前さんの『世界』なわけだろ? もうちょっとその……言いたかねえけど『チート』? 的な何かとか、この『異世界ライフ』をエンジョイするための俺だけに付与された『スキル』? とかそういったアドバンテージはねえわけか?」
なけなしの知識を総動員させ、努めて穏やかにそう言い募ったものの、俺の横をすっすと猫ならではの静かな歩様で付いてきていた
相手は猫なれど、女の涙に弱い昭和を引きずったメンタルを持つ俺は泡食ってしまうばかりなのだが、ネコルは下を向いて歩き続けながらも、ぽつぽつと言葉を紡ぎ出してきた。
――私、神々の中では、ほんとに最底辺で……おミソなんですよね……「世界を創る」っていう
おいおい、スケールはでかいが、
「いやでも、この『世界』はそう悪くはねえと思うぜ? 広大な自然!! そんでその、人間とか
猫目からぽろぽろ光る粒を零し始めたネコルの姿にうろたえ、俺はそんな毒にも薬にもならねえ慰めの言葉を発するほかは出来ねえが。と、
――今回のは凄い偶然が重なったんですけど……それでもあの憧れの「地球」を内包する「世界」に匹敵するようなモノが出来たって喜んでたんです。
うん……何だか壮大な神話の中の
――その禍々しき邪神の名は、「サ=クカワァボ=クズミィ」……ッ!! そいつが、その憎きドロボウ女狐がッ!! 私の創りし清らかなる世界を、自分有利な「ルール」を制定するという「能力」によって、乗っ取ろうと動き始めているのです……ッ!! それを防ぐため、そして
こいつぁやべえ。ヤバい意味でヤバい。あらぬ一点を凝視しながら、そう猫科の牙をガチガチいわせながらのたまうネコルの狂気走った横顔に、俺はもう戦慄しか感じねえが。
つうかこれもう
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