第3話 ゾンビの倒し方

 ライトと化け物の間に滑り込んだ綺星。化け物の爪と綺星に生えた爪が激しい擦過音を立てて衝突。瞬間的な沈黙がくる。


 直後、化け物が鋭い牙をそろえている口を大きく広げてきた。


「ギャァアアアアアアッ!!」


 いままでは聞いたことなかった化け物の鳴き声……、というより咆哮だ。


 綺星と化け物の爪が互いにはじかれる。


 化け物はのけぞりながらも、もうひとつの腕を綺星に目掛けて振るいだす。対する綺星は鋭い跳躍で瞬く間に避けては天井に足をつける。


 さらにそのまま、天井を蹴り、化け物の真後ろに陣取った。


 激しい二回の斬撃音。綺星の両腕の爪から放たれた二撃は確実の化け物の背中を切り裂いた。


「べぁああっ!!」

 だが、化け物は痛がる素振りなど見せず、裏拳のように腕を振るってくる。


「がっ!?」

 放った一撃のあと、動けなかった綺星の体に大きくめり込んでいた。


 一樹のすぐ横で吹き飛び転がっていく綺星。


「べぇぇぇぇぁぁ~~~」

 化け物は綺星から受けた攻撃などもろともしていないかのようにゆっくりと迫ってくる。


「……くっそ!!」

 一樹はとにかく手に持つピストルを構え連射。しかし、もうわかりきってはいたが、化け物に効果はない。


 化け物は一樹の攻撃など気にも留めず、一番近くにいた喜巳花を目掛けて突っ込んでいく。


 奈美から響輝の手当を任されているが、こんな状況でそんな余裕はない。響輝のとなりに付いたのはいいものの、化け物があまりに暴れすぎ。


「おい、和田! ……受け取れ!」

 突如、となりにいた響輝が叫んだ。負傷した右肩を押さえつつ、放り投げたのは……リストバンド。


 離れていたライトはすぐさま反応してジャンプ。リストバンドを受け取り腕にはめた。


「高森さん! しゃがんでください! プットオン!」


 システムがライトの身にまとった瞬間、近くにあったデスクを思いっきり蹴り上げていた。


 一樹の体の何倍も重そうで大きい先生用のデスクがウソみたいに宙を舞う。


「……は!? ……ムチャしよん!」

 一歩遅れて反応し、慌ててしゃがみ込む喜巳花。その刹那にデスクは化け物を巻き込み、大きな音を立てて壁に激突していた。


 喜巳花は床を転がりつつ化け物と距離を取った。


 全員、呼吸を整えつつ化け物から少し離れる。


 化け物はといえば、デスクに押しつぶされたというのに、まだ体をガタガタと震わして喉からうなりを上げていた。


「……まだ生きてるよ……。タフなんだね……」

 奈美、そして喜巳花が銃を構えつつ近づこうとする。


「……どうすんの、これ……。いくら攻撃しても効かへんでこいつ。なんか再生すらしとるし」


「方法はあると思う」

 化け物に注意を向けつつ、一樹はみんなに向けて提案をする。


「響輝が言ってたように、本当にゾンビみたいだよね。だったら、ゾンビの弱点の鉄板は……」


 自分の頭をコツンと指さす。

「ここ。頭を吹き飛ばす」


「……うぇぇ……」

 言葉のチョイスが生々しいと感じたのか、喜巳花が舌を出して微妙な表情を浮かべる。


 対して奈美は冷静に首を縦に小さく振った。

「まぁ、それしかないよね……。いまのうちにやろう……。


 でなきゃ、あたしたちの頭が先に吹き飛ぶかもしれないよ。体とおさらばしたいというなら、……止めはしないけど」


「やりやしょう。姉御」

「だれが姉御だ。お姉さんとお呼び」


 喜巳花と奈美が場に似合わないジョークを交えつつ銃口を化け物の頭に向ける。一樹、そしてライトも同じく銃口を向けようとした。


 だが、次の瞬間、化け物の腕が大きく振り上げられた。それによって化け物を押さえつけていたデスクが再び宙を舞いだす。


 トドメを刺すという段階。安心し始めていたなかで起きたその突然のことに、全員が身を丸めてかがみこんでしまっていた。


 その一樹たちの反応はまぎれもなく大きな隙だった。気が付けば視界いっぱいに広がる化け物の顔。

「……っ!」


 そんな次の瞬間、化け物の頭部に強烈な蹴りがたたきこまれていた。そのまま化け物は近くにあったデスクに体をぶつけつつ、壁にたたきつけられる。


 同時に、宙を舞っていたデスクが配置されているデスクとぶつかり、怪音が鳴り響いた。


 一樹の目の前にいたのは綺星。視界には綺星の手から伸びた、まがまがしい爪が入ってくる。


 綺星は足をばねにして静かに着地。ゆっくりと蹴りを放ったその赤い毛でおおわれた足を下ろした。


 やっと訪れる沈黙。化け物の体はもう動く気配がない。


 頭部は綺星が放った蹴りによって大きく変形しているところを見ると、実際に弱点であったことは間違いなかったようだった。


「……よかった……」

 だれかがそんな声を漏らした直後、目の前に立っていた綺星の姿勢がグラリと崩れる。


 慌てて一樹が抱え込むころには、綺星の意識は遠くへ言っており、変化していた体も元に戻っていた。

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