真22話 集いし仲間
「────ッ! ただいまです。アーサ王」
「ブフォッ!?」
豪快にコーヒーを口から吹き出すアーサ。無理もない。モグが早朝、私とアポロンを皆が集まる予定のキャラメルトの屋敷に転移したものだから、優雅な朝のティーブレイクを嗜んでいた王の目の前にいきなり現れたら、コーヒーだって、吹き出す。
「朝早く、申し訳ないです。モグが急ぐものだから、こんな時間に帰ってきた次第です」
私がモグの頭と一緒に頭を下げると、アーサ王は「構わんよ」と口の端に付着した茶色い汚れをナフキンでキュッキュッと拭きながら答えた。
「私も連絡しようか悩んでいた所だ。君たちから戻って来てくれたのは、こちらとしても好都合だ」
「そう言ってもらえて感謝です。──ほら私の言った通りだったじゃん!」
「慌てていたのはシーちゃんもでしょ! 転移のスキルをきちんと使えるのは、私だけなんだから、もっと感謝してもらわないと」
「うう……。た、確かに『確率で使える』私と違って、モグは『確実』だけど……あーっ! もう! 悪かったわよ。次もお願いします~」
「えっへん」
「……全く。調子いいんだから……」
私がため息を吐きつつ、モグを見ていると、アーサ王が近くにいたカレンさんに何やら話す。少しして、私達の前に来ると、如何にもジェントルマンな口ひげを触りながら、私に言った。
「ま、ともあれ、まずは朝食でも、どうかな?」
グー~。
ちょうどよく、アポロンのお腹が限界のようだ。
「ですね」
私は目の前にある以前、ここにはいないミーヤちゃんと黒幕の幹部であり、モグと因縁があったネヴィア──アーサ王の奥さんだった彼女が食べていた朝食が運ばれる長いテーブルに向かった。
◇
「──ところで、他の方々は、どこに?」
朝食を食べ終え、満足した私は、あの美味しいコーヒーを啜りながら、王に尋ねた。
「うむ。そろそろ来る予定なのだが──」
すると、執事の一人が王にこそこそと話す。聞く感じ、誰かが来たのだろう。私がコーヒーカップを再び口に持っていこうとした瞬間、部屋の扉がゆっくりと開いた。
「……はぁ~。全く。長旅はするもんじゃない。そうだろう? ヴィヴィアン」
「ネプチューン殿、師匠が聞いたら怒られますよ? シエテさんの為なんですから、ちゃんと来ないと」
「ご無沙汰しております。シエテ様、マリン様」
「エレン!? それにヴィアにネプチューン様!?」
私の声に反応した水竜族の王、ネプチューンがこちらを見ると、手を振り答えた。
「よう、嬢ちゃん。元気そうだな」
「師匠~! 帰ってたのですね! やったー!」
マリンこと、モグが「ゲッ」と一瞬で顔を歪めると、抱きついてきた弟子の頭を片手で抑え、頭を抱えた。エレンも妹であるカレンに優しくその場で手を降ると、カレンもそれに答えた。
「あとは、彼女だけかね?」
「はい。そろそろお見栄になるかと──」
帰ってきて早々、メイドとしての仕事をこなすエレンが廊下に目を向けると、一度退出し、来客をもてなすようにお辞儀をした。
「失礼する!」
ガチャガチャと身につけた金属の鎧を鳴らしながら、二名のお付きと共に剣士が部屋に入ってきた。部屋に入いったその人は忠誠を誓っているアーサ王の前で一礼すると、お付き含めその三名の騎士が頭のマスクを取った。目の前の方は見かけによらず、美人で、長い艶やかな金色の髪をしていた。
「お初にお目にかかります、シエテ・ペンドラゴン殿。私、『モードレット・デュヘイン』と申します。後ろに居るのは右から『アイギス』、『デュラン』です。以後、お見知りおきを」
「初めまして。シエテ・ペンドラゴンです。えっと……モードレットさん……?」
「『モルト』で構いません。この度は今作戦の隊長を任された身として、精一杯、頑張る所存です」
その言葉に私は思わず「あれ!?」と声を上げた。
「隊長って私じゃなかったっけ?」
「ん? ああ、言ってなかったね。確かに隊長はシーちゃんなんだけど、ぶっちゃけ無理だと知っているから、顔だけだよ。本当の指揮官はモードレットがする予定」
「カオダケ…………まぁ、そうよね……私には、ね……」
あからさまにショボくれた私にヴィアがポンポンと肩を叩いて、励ます。……薄々わかってたけどね。
「てなわけで、これより、作戦会議といこうじゃないか!」
モグが杖を床にトントンと軽く叩くと、先ほどのテーブルに集まり、真ん中にいるモルトがデュランから手渡されたこの世界の地図を広げた。
「まず、星を潰すために用意したいのは、各国の軍事力です。それを分かりやすくするために色分けされたこの駒を使って説明します」
モルトが世界で最も流行っている何かのアナログゲームの駒(チェスみたいなやつ)をそれぞれの国にいくつか配置すると、動かし始めた。
「今我々がいる『アルテミス』には我々【
「うん。アポロン、嬉しい」
モルトが続ける。
「その右隣、水国ではネプチューン殿率いる水辺に長けた軍隊、これが三千名。しかし、その反対、火国は協力出来ず、また、敵軍に組いった可能性が高い。これはシエテ殿、マリン殿からの情報です」
「……聖剣は強く出来たけど、協力出来ないのは少し残念ね。でも、こればかりはしょうがない」
「……そして、敵軍、黒国は火国の王、ミネルバ殿と憎きマロー王。……が、ここで問題があります」
「ん? 何?」
私がわからず、モルトに問う。すると、
「敵幹部、マロー王、そこはわかっていますが、その他の敵の数が現在、調査中なのです」
「ッ! モグ! そう言えば、彼女らは?」
「ネヴィア達か。もちろん、視野には入れているが、あくまでマロー王に会う直前だと踏んでいる。出ないと幹部じゃないしね」
肩を動かし、その問いに答えた。その返答に私が「うーん」と唸っていると、地図のとある場所に目が行った。
「モルトさん、ここは?」
私が指差す先には黒国を囲む、木々の数々だった。
「ああ。そこは《原種の森》と呼ばれていていまして、めったに人が立ち寄ることは無いそうです。噂では森には『魔女』がいるとか」
「魔女? モグみたいな?」
「おうおう、シーちゃん! ケンカかぁ!?」
私が冗談かましつつ、魔女っぽい動きをする。──魔女っぽいって何だ?
「そうですね……一応、確認しに行ってみますか。何か手がかりになるものがあるかも知れないですし」
「はいはーい! 僕がいくよー!」
ヴィアが手を上げ、ジャンプする。私は言い出しっぺというのもあり、行く気である。……となると──
「はぁ。気が進まないが、転移のため、私も動向しよう」
モグが嫌そうな顔をしながら、答えた。……そんなにヴィアのことが嫌いなのかな?
……と、変な探りを入れそうになるので、モルトに話を促す。
「コホン。えー、という訳で、それぞれ、持ち場に着き次第、再度連絡をお願いします。
我々は集まりやすいアポロン殿とご一緒させてもらいますね」
「歓迎。みんな、喜ぶ」
作戦が決まったところで、皆、部屋から退出すると、アーサが私を引き留めた。理由は……何となくわかっている。
「シエテ殿。……ミーヤは……どうなのかね?」
「……まだ見つかってません。でも必ず! 必ず、またここに。ミーヤちゃんと一緒に、帰って来ます! それが私の役目ですから」
「うむ……」
まだ心配そうなアーサ王を横目に私は部屋の扉に手を掛けると、一言、
「前にも言いましたが、私まだ──」
息を大きく吸い、物語に出てくる王道主人公なセリフを私は淀みなく言った。
──「彼女の『護衛』、降りてませんから!!」
そう言うと、私は部屋の扉をバタンと閉めた。
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