新学期
「あー、夏休みも終わっちまったなあ……」
久しぶりの学校。
相変わらず前の席でボサボサな髪をかきながら暁人が声をかけてくる。
「そうだな……」
夏休みが終わったことは残念といえば残念だった。
だが俺にとってこの夏休みはあまりに怒涛の日々を過ごしてきたせいか、休んでいた実感が薄い。
毎日のようにどこかに行っていた夏休みのあの日々に比べると、毎日同じ場所に来るだけの学校のほうが落ち着いた印象すら感じているところだった。
「お前はまあ色々あったからいいだろうよ。後で話聞かせろよ」
「うっ……」
暁人には話す必要があるだろうか。
いやでも、愛沙との間での約束はこうだった。
◆
「学校では付き合ってること、言わないようにしようかしら」
意外といえば意外だった。
「なんでだ?」
もともと愛沙は俺が隠すのを良しとしないようなことを言っていた気がしたからだ。
だが理由を聞くとまあ納得できるものだった。
「えっと……まなみにも言えなかったのに、私たちからちゃんと報告できると思う?」
「それは……」
たしかにそうだった。
まなみは自分で察してくれたから有耶無耶になったが結局俺たちはそれを押し付けあっていたんだったな……。
「よく話すメンバーならそのうちバレるでしょうし、わざわざ改まって言う必要もないかなって」
「まあそうか」
「あとは……まあこっちはいいわ」
「いや気になるだろ。そこまで言ったら」
そこまで言って愛沙の顔が真っ赤なことに気付く。
「うぅ……」
「えっと……」
「その! まなみに言われたのよ! 私と付き合ってるってわかったら康貴が目立っちゃうって」
「それはまあ……」
学年のアイドルと付き合うのだからそうなるだろう。
そこを気にしてくれたのか、と思ったがどうやらもう少し事情が違うらしい。
「康貴はいままでたまたま目立つことなく過ごしてくれたからモテなかったけど、注目を浴びたら間違いなくモテる!」
「ええ……」
それはないだろう……。
「やっぱり……わかってないのもだめ! とにかく! 学校で康貴を目立たせたくないの!」
「そうなのか」
「そう! 康貴がかっこいいのは私だけが知ってれば良いんだから」
直球の言葉に思わずこちらも何も言えなくなって固まる。
「うぅ……なによ……」
「いや……」
「もうっ! とにかくだめだから! わかった⁉」
「わかったよ」
◆
そんな考え事をしているとちょうどよく担任が教室に入ってくる。
そしてすぐに、俺たちの雑談よりも注目度の高い話題にさっきの話はかき消されていった。
「転入生を紹介する」
担任の声に教室中がざわめきだす。
「俺職員室でみたけど、めちゃくちゃ可愛かった!」
色めき立つ男子たち。
そうか。二学期からはあいつ……有紀が転入してくるって言ってたな。
いや待てよ……? 可愛かったってことは二人いるのか、転入生。
「さて、それじゃ入ってこい」
「はい」
見てきた男子が騒ぎ立てるのがわかるような、鈴がなるような透明感のある声が響いた。
「おお!」
「絶対可愛い! もう声が可愛い!」
「案内してあげたい!」
男子のテンションはピークに達していた。
ガラッと扉を開いて姿を現したのは、声のイメージ通りの美少女。
全体的に色素の薄い透き通るような美しさにと、ショートの髪をアレンジして結んでいる幼さがギャップを醸し出していた。
「はじめまして。入野有紀です」
ペコリと頭を下げる。
あれ?
いま有紀って……。
「ちなみに愛沙ちゃんと康貴くんは幼馴染でした! よろしくね? 2人とも!」
「え?」
「「「えぇぇえええええ!?」」」
そもそも俺と愛沙が幼馴染という情報すら初耳に近かったクラスメイトたちの叫びが朝の学園にこだました。
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