アドバイス【まなみ視点】

「でね! そのあとカフェで話をして、もう帰るのかなって思ったら夜の予約までしちゃってたんだよ! 康貴!」

「良かったね、お姉ちゃん」


 帰ってきて夢見心地なお姉ちゃんを捕まえたらどんどん色んな話が出てきていた。本当に幸せそうで普段のお姉ちゃんの精神年齢よりかなり低くなってるのが心配なくらいだった。

 康貴にぃがお風呂に入ってる今のうちに色々書き出せてよかった。


「でも、そこまで行ったのに大きく進展はしないんだねえ……」


 康貴にぃはほんとに……。いやまぁ、そう簡単にいく2人ならこんなにこじれることもなかったよね……。


「進展……」

「もっと仲良くなりたいよね?」

「そう……ね?」


 いい感じにふわふわしてる今のお姉ちゃんなら丸め込めそうだよね。


「そんなお姉ちゃんにこの夏休み最大のイベントをご紹介します!」

「最大のイベント……?」


 きょとんとするお姉ちゃん。こういう表情は我が姉ながらほんとに可愛いなぁと思ってしまう。

 多分康貴にぃも、前みたいに睨んだ顔しか知らないわけじゃないし、こういうところでちょっとずつジャブは与えられてると思うんだよね。


「? まなみ?」


 おっと今はお姉ちゃんがしっかり夏のうちに勝負を決められるようにするんだった。

 お姉ちゃんたちの性格で夏を過ぎてから学校でまた同じ関係値を維持するのは難しいだろうから……。


「お姉ちゃん、夏といえば?」

「映画……?」


 だめだ。もう壊れちゃってる。


「映画はいつでもいける! また行く約束したんでしょ?」

「えへへ……」


 だめだ! お姉ちゃんが溶けてる!


「夏休み最後のイベントがあるでしょ! 花火大会!」

「そうね?」

「それ、康貴にぃ誘って行っておいでよ」

「康貴と……?」


 お姉ちゃんにいつもの判断力がないからもう逆にけしかけちゃったほうがいいかもしれない。


「お姉ちゃんから花火に誘うんだよ?」

「うんうん……?」

「で、ちゃんと浴衣着て2人で行く」

「2人で……」


 ぽわぽわと音が出そうなお姉ちゃん。もういっか。このままいこう。


「で、夜、いい感じの雰囲気になったら」

「いい感じの雰囲気……」

「お姉ちゃんが康貴にぃにしっかり好きって伝える」

「好き……好き?」


 顔が赤くなるお姉ちゃん。


「好き!?」


 目がぐるぐるしてる! これはこれで可愛いけどだめそうだ。


「もうね、ここまで仲良くなってたら、康貴にぃを落とすためにはもう一歩なんだよ」

「落とす……」

「でもね、お姉ちゃんがあんまり自覚なくこれだけ好きアピールしてても康貴にぃはだめだったから、はっきり言うしかないと思うの」

「好きアピール!?」


 色々混乱してるみたいだけどそろそろお風呂からも出てきちゃうから急ごう。


「とにかく! 浴衣! 夜! 非日常! そして告白!」

「告……白……」

「そこまでやればもうバッチリ。康貴にぃはお姉ちゃんのもの!」

「私の……?」


 お姉ちゃんを急がせるのは色んな理由があるけど。


「夏休み中に告白できなかったら……」

「できなかったら……?」

「康貴にぃは別の女の子と付き合っちゃいます」

「え!?」


 絶望的な表情のお姉ちゃん。

 お姉ちゃんに現実的にそんな候補がいないとか、お姉ちゃんが圧倒的に有利だとか、そういう話は頭にないと思う。


「嘘……」

「ほんとです」

「どうしよ……」

「告白するしかない」

「告白……するしかない!」


 とにかくその気にできれば何でもいい。


「告白……!」


 お姉ちゃんはその気になったはず。正気に戻ったときにどうなるかわからないけど、普段の感じだと「告白しなきゃ」っていう焦りだけはしっかり持ってもらえたと思う。


「頑張ってねお姉ちゃん」

「うん……!」

「まずはこのあと花火に誘わなきゃだよ?」

「そうね……!?」


 よしよし。大丈夫そうだ。

 これは勘だけど、なんとなーく、夏休みが明けちゃうとまずい気がする。例えばなんかこう、強力なライバルが現れちゃったり……? そうじゃなくてもまた学校に行ったらぎこちなくなるはずの2人にそんなの来ちゃったら冬休みまでこんな関係でいられる気がしない。


「頑張ってね」

「うん!」


 それに早くしないとお姉ちゃん。私が康にぃのこと、もらっちゃうからね?

 ほんのちょっとだけ、そんなことを思っていたらお風呂のほうから康貴にぃが出てきた音が聞こえた。

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