ゲームセンター
「これでいいよな?」
「うん……ええ……」
お札を崩して映画代を愛沙に渡す。
わざわざ崩した理由は愛沙がきっちり半分しか受け取ることがないからだ。
いつもなら少しでも多く出そうとすれば突き返されるんだが、今日はどこか上の空だった。これなら崩さずに渡してもばれなかったかもしれない。
「どうした?」
「うん……えっと……その、この後どうしよっか?」
チラチラ上目遣いでこちらを伺うものの頑なに目を合わせない愛沙。
やっぱり学校の人間に見られる可能性が高い場所では気になるんだろうか?
「んー、愛沙ってゲーセンよく来るか?」
「え? んー……莉香子となら」
「秋津か。なんか音ゲーやるって言ってたな」
「こないだはよくわからない洗濯機みたいな機械で腕が6本くらいないと出来なそうな譜面をやってたわね」
腕が6本……。
「音ゲーやるか?」
「えっと……」
歯切れが悪い。これは多分あれだ。まなみからなにか指示があったんだろう。
俺のところにも個別メッセージで色々送ってきてたからな……。
出来る男は車道側を歩かせない! とか、今日の夜ご飯のオススメはここ! デザートは必ずあーんすること! など。
「あのね、プリクラ、撮らない?」
なるほど……そうきたか。
「ダメ……?」
黙っていたせいで愛沙が不安そうに服の裾を掴んできた。
「いや、ダメじゃないけど」
「よしっ!」
まなみからの指令を達成できることに安心したんだろうか。愛沙が小さくガッツポーズをしていた。
「あっ、これは……えっと違くて……あの……」
「わかってる。で、どっちだっけ?」
「こっち……」
プリクラコーナーといえば男性立ち入り禁止の聖域だ。もはやどこにあるかもよく知らない。
愛沙は目を合わせずに服の裾を引っ張って誘導し始めた。
「ここか……」
妙にピンクだし雰囲気からして男を寄せ付けないオーラがあった。前に立ってるだけで拒否されているかのような錯覚に陥る。
「なんで固まってるの……」
「いや……なぁ?」
一応理屈だとわかるんだ。
男性のみの入場お断りとでかでかと書かれたプレートの下に、女性を含むグループやカップルを除くと書いてあることは。
「もしかして、入ったことない?」
「……ない」
「ふふ……そっか。うん……そっか」
そんな優越感でいつもの調子を取り戻さないで欲しかった。
「ここで立ってたら余計怪しいわよ?」
「そうだな……」
愛沙に手を引かれて恐る恐る足を踏み入れた。
「なんか色々あるんだな……」
「そうね。ほら、早く」
目の前にも同じような機械が置いてあるのにズンズン奥に引っ張られる。なにか俺にはわからない違いやこだわりがあるのだろう。
「んー」
ようやく足を止めた愛沙がいくつか足元を覗き込んでいった。
「ここ」
「ああ」
「早く入る!」
「あ、あぁ……」
固まってたら押し込まれるように中に入れられた。
俺が財布に触れる暇もなくテキパキと画面を進めていく愛沙。
「どれがいい? 背景」
「え、どれがいいんだ……?」
「とりあえずこれと、これと、ほら! 早く押さないと終わっちゃう!」
「え!? はやくない?!」
こういうのを見ると愛沙も女子なんだなと改めて認識させられる。いや間違いなく女子なんだが、こう、普段はお姉ちゃんとしての愛沙や家族みたいな愛沙という認識が強いんだなというのを実感させられた。
「もう! じゃあこれで!」
「ああ」
機械から笑ってー! と指示が飛んだ。
「え? もう撮るのか?!」
「そうよ! ほらちゃんとカメラ見て!」
「カメラどこ?!」
「あっち!」
こーんなかんじ、と表示された画面には、俺の方を見てカメラを指差す愛沙と何故か下の方に目を彷徨わせた俺がいた。
なるほど、画面を見てるとこうなるのか。
──次は2人で可愛いポーズ!
「え、どんなポーズだ!?」
「ふふっ……ほんとに初めてなのね」
「言っただろ!? え、もうカウントダウンしてる!」
カシャと音が鳴り表示された画面には口を開けたまぬけな男としっかり微笑んだ美少女がいた。
「次はちゃんと写る……!」
「はいはい」
そう決意して臨んだというのに想定外の指示が飛んできた。
──変顔!
「え、変顔?!」
「あははっ!」
戸惑っていたらよくわからないポーズで何故か横を向いた俺と吹き出した愛沙が画面に収められていた。
「ほらほら、次もあるわ!」
「次こそ!」
──全身で! ぎゅーってくっついて、仲の良さをアピールしてね!3、2
「ぎゅーっ!?」
「もう……こうするの」
「え」
──1 こーんなかんじ
そこには目を瞑って顔を逸らしながらもしっかり俺に抱きつく愛沙と、やはり間抜けに口を開けて茫然とする俺が写っていた。
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