幼馴染の妹
「ごめんなさいねぇ。わざわざ」
玄関を開けると、おばさんが出迎えてくれていた。
久しぶりに見たが、ふんわりパーマちっくな髪の毛と穏やかな表情はあの日のままなように感じる。少しずつシワが出てきて年月こそ感じるものの、太ったりしていない分うちの母よりはおばさん化はしていない。このあたりは流石、
「ご無沙汰しています」
「あらぁ、昔みたいにただいまでいいのよ?」
なんでも妹のまなみが勉強で困っているらしく、俺がその助っ人に呼ばれたらしい。らしいというのは、家庭教師になることは俺の意志に関係なく、親が勝手に決めたことで気づいたらここに送り出されていたという経緯に対する、ささやかな抗議である。
俺たちが疎遠になってからも親同士は仲が良いので起こったある意味
そのせいだろう。
「お邪魔します」
「……」
玄関に足を踏み入れると、廊下の先で腕を組んでこっちを睨んでいる愛沙がいた。怖い。
「わぁ〜!
と、階段からまなみが現れる。
ドタバタ降りてくる様子にどこか懐かしさを感じてほっこりしていると、勢いそのままに飛びかかってきた。
「ぐふっ……?!」
愛沙も目をパチクリしてびっくりしてるじゃないか。このおてんば娘め……。
なんだかんだ懐かれていた記憶はあったが、まさかいまだに抱きついてくるほどとは思っていなかった。姉ほどではないにしても色々成長しているし、そもそも1つしか学年が違わない相手はもう十分大人な身体なわけだから、もう少し中身もそれに伴って成長していてほしかった……。
「久しぶりー!」
なんかお前が来て愛沙が一段階怖くなったぞ。
多分妹をお前なんかに渡すかと思って怒ってる! 俺にその気はないから離れてくれ。
「えへへー。康貴にぃ〜! ほんと久しぶりだね! 最後に会ったのはいつだったかなぁ」
全然こちらの意図を汲み取ってくれないまなみに抱きつかれたまま、愛沙には睨まれ続ける。
おばさんだけはニコニコと、その様子を楽しそうに眺めていた。
「大丈夫か? 勉強やばいって聞いたけど」
「もー! つまんないこと言ってないでさー、こんな可愛い子が抱きついてるんだから少しくらいドキドキしてくれてもいいと思うんだよねー?」
自分で言うなと思うものの、確かにまなみも整った顔立ちをしている。
清楚で正統派美少女の姉と比べると、好奇心で輝いた目や少し短い髪が年齢差以上に幼さを感じさせる。ただそれでも可愛いことには間違いない。学年を隔てても話題になるくらいには。
「とりあえず1回離れろ」
「1回ってことは、この後お部屋で抱きついてもいいんだよね?!」
俺に抱きついても楽しくないだろ。お姉ちゃんがすごい顔で見てるからやめなさい。
「相変わらずまなみは康貴くんにべったりねえ」
「流石にこれはやりすぎだと思うんですけどね……」
愛沙は遠くでこちらを睨むだけで何も言葉は発していない。というのに恐ろしい圧は次第に凄みを増している。ただその圧はどうも俺にしか届いていないらしく、まなみは好き放題だった。
頼みの綱のおばさんも「あらあら」と柔和に微笑むだけで止める気はないらしい。
いいのか、嫁入り前の娘がこれで。
「ほらほら! 早くお部屋行こ!」
「わかった、わかったから」
離れたと思ったら今度は手を取って階段へ引っ張るまなみ。
お前が俺に触れるたび愛沙の顔がすごいことになっていってるからな!?
前途多難な家庭教師生活がスタートした。
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