第16話 ESCAPE 2/2
「よし! 出発!」
アジトの外に繫がれたジンベエザメサブマリンに乗り込み操縦桿を握った。右隣にはもちろんメグが座る。
サブマリンはゆっくりと発進し、五分もかけてようやく最高速度に達した。
「なんとか一旦は撒いたかな? こうなったらこのまま――」
アレクはなにやらペラペラしゃべっていたが急に言葉を切って――
「ワッ!」
とメグを脅かした。
「キャーッ!」
メグは予想外なほどに他愛もなく驚き、大変に可愛らしい嬌声をあげた。
「なんだおまえ! 急に」
「なんかボーっとしてるからさ」
「す、すまん。なんかこう……状況の変化にアタマが追いつかなくて」
「しっかりしてくれよな。もう仲間はおまえとわずかな友達しかいないんだから」
「というと?」
「ホラ。俺たちの仲間のほとんどはヒカリの信者だっただろう。すると必然的に」
サブマリンの天井がガンガンと打ち鳴らされる。
やがて天井に大きな穴が開き、そこから大量のノコギリザメが現れる。
「このように。今度は俺たちに牙を剥くわけだ」
彼らは直接アレクとメグを狙うのではなく、サブマリンの壁や計器に狙いを定め、そのギザギザの鼻を擦りつけてゆく。
アレクは目閉じてヒカリの放送にアクセスする。やつは腹の傷を勇者に治療してもらいながらゲラゲラ笑ってその様子を実況していた。
メグは無言で立ち上がりサメハダブレードをふるう。
アレクもそれに加勢して内ポケットから取り出した拳銃を撃つ。
「テキじゃないが。船がモタねえぞ!」
なんとかノコギリザメを退治するが壁にも天井に穴だらけ。すぐにその穴から新たなサメや魚たちが侵入してくる。
「――!? あれはビショップフィッシュ!」
その中にはウロコで出来た法衣のようなものを着た二足歩行の魚がいた。あまりに不思議なルックス。文字だけでは伝わりづらいこと請け合いだ。
「アレク。なんだそいつ」
「魚の法術使いだ。ほらあんな風に」
ビショップフィッシュは気絶するノコギリザメに近づき杖を掲げると、たちどころに傷を治してしまった。ちなみにこのビショップフィッシュはちゃんと実在する――と言いたいところだが、まあ実在がウワサされるいわゆるUMAの類である。
「すごいな……初めて見た」
天井からはさらにシュモクザメ、ミツクリザメ、メガマウスなど個性豊かなサメたちが続々と乱入してくる。
「まずい……」
「うむ。ダラダラやっているヒマはないな」
メグは両手を広げて構え大技を繰り出す。
「バズソー・トゥース!」
ギザギザに尖った三角形のキバが無数に出現。乱入してきたサメたちは一網打尽となる。
「おお! オヤジのワザか」
メグは少しだけ悲し気な表情でうなずく。
「よしここからはしっかり索敵しながら進もう。せまってきやがったら魚雷を――あっ」
「どうしたアレク?」
「でけえ」
目の前にサブマリンよりもさらに巨大な魚影が現れる。
「いいかげんにしてくれ。なんだこの魚は」
「メガロドン……」
カルカロクレス・メガロドンは約150万年前までわれわれの世界にも存在していたとされるサメの仲間だ。歯の化石しか発見されていないが、その全長は二十メートルとも三十メートルとも言われれいる。
「うおっ! ぎゃあああああああああ!」
メガロドンはジンベエザメサブマリンを一口に飲みこんだ。
凄まじい振動。凶悪なまでの熱気とむせかえる血の臭いが操縦席全体を包んだ。
天井の穴からは真っ赤な内臓壁が見え、そこからボタボタと酸性の液体が垂れてくる。
サブマリンの計器がウイーンウイーン! と警報音を発した。
「げっ……胃液で壁が溶けだしている」
メグは軽く舌打ちをしたのち、ふたたび大技を放つ。
「気に食わない技だが――」
彼女が手にしたのは黄金に輝くチェンソーだった。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
刃先を天井に思いきり突き立てる。
チェンソーはブルンブルン! と音を立てながら天井に見える内臓を破壊してゆく。
メグはサブマリンの中を縦断するように駆けた。
逆噴射する間欠泉のごとく血が噴きだす。
「お、おいメグ!」
「があああああああああ!」
「ギャオオオオオオ!」
端から端まで走りきり、胃を真っ二つにされたメガロドンが断末魔の叫び声を上げたころ。
「メグーーーーー!」
メグもすべての力をつかいきり、床にばったりと倒れた。
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