女のショートショート〜にぎやかで果てしない日々〜
清涼
女のショートショート〜first love~
第1話 ドタキャンC子 54才
すぐに電話してこう言ってやりたかった。
『あんたにとって約束って何?』と。
高校時代の親友3人のグループラインに
私は昨日、おそるおそるラインを入れた。
『明日、飲み会だよね?
大丈夫?』
そうすると、c子からこう返ってきた。
『ごめんなさい、歓送迎会が入っちゃった。バタバタ入ってしまって、ほんとにごめん、2人で飲んでね』
やられた!と思った。
c子にドタキャンされるのはこれで何回目だろう。
頭にきた。
なめるな、と言いたかった。
で、約束をなんだと思っているのか?
と聞きたかった。
だけどラインって便利だ。
昔ならラインなんかないから、
喧嘩が起きただろう。
『先約を、なんだと思ってるの?』
そう言って、怒りをぶつけてしまっただろう。
c子に平気で上書きされる私たちの約束って
なんなんだろう、と思う。
c子って大人の発達障害なんじゃなかろうか。
あるいは、認知症が始まっているのではないだろうか。
c子は時間に几帳面な女だ。
必ず約束の10分くらい前から待っていてくれる。
私ともう1人のa美がぴったりに着くタイプだから
いつも一人で酒を飲むのを始めたりしている。
刺身なんか注文してもうかなり食べ進めていたりする。
なのにどうして肝心の約束を
平気でドタキャンするのか。
考えているうちに、
私は今日が
ラグビーワールドカップの
決勝があることを思い出した。
そうか。
あの子ももしかしたら、彼氏と
観戦するのかもしれない。
もう10年も不倫関係にある、
あの彼氏と。
そうか。
ちょうど良かった!
私はc子に感謝すらした。
飲み会、
なくなって良かった。
決勝は横浜だけど
パブリックビューイングやスポーツバーへ繰り出す
人たちで、電車も街も混みそうだ。
『仕事ならしょうがない、またね...』
私は冷静になって
物分かりの良いラインを打ちはじめた。
そこへ、
a美からラインがはいる。
『じゃあm子、何時にしようか?』
a美の怒りが文字から伝わってきた。
だけどa美は、賢い女だ。
c子を責めるでもなく、
謝罪にもスルーして、
私との待ち合わせ時間をわざわざグループラインに送ってくる。
行くの?
えーっ。
いつも必ずここで
『じゃあまた3人集まれるときね』となるのに
今回は初めての展開だ。
私もスピード感を大事に返信した。
『6時で、どう?』
すぐに既読が2と表示される。
c子よ、少し傷つけ。
私たちは二人でも飲むことを
ついに選択したぞ。
『おっけー』
ミッキーマウスのスタンプが踊った。
ラグビーの試合はあとから録画で観ることにしよう。
何年かぶりにa美とサシで飲みにいく。
電車が、新宿に着いた。
パブリックビューイングに向かう人たちだろうか。
日本代表のジャージを着た人たちの波をかき分けた。
いつもの西口改札へと小走りした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます