♭201:工藝かーい(あるいは、イタし/カユし/ダイ好き!)


 図らずも、超人タッグトーナメントめいてきた場ではあったけど、観客たちはえらい盛り上がりだ。そう狭くはないこの会場ホール全体が、強風で中から煽られているような空気の震動みたいなのを感じている。その只中、


 顔面同士をごっつんこさせられた「桃色」「黒色」は、被っている戦隊系の覆面マスクで護られていたということもなく、あえなくその衝撃にて二人とも昏倒してしまったようだ。力無くフィールドに倒れ伏している。


「いや……これどうすんの」


 そんなルール無用の残虐ファイトを眼前で展開させられた私は、思わずそんな空気の抜けたような声を乾いた唇の隙間から押し出すようにして発することしか出来ないのだけれど。


「むぉ~うまんたいッ!! 我ら『108MANパワーズ』は貴殿らの次の対戦相手ッ!!」


「つむぁり、ちびこいのとの対局無しで、勝ち上がれたという、ラッキーな状況ッ!! 感謝してもらおうぞぁうッ!!」


 うん……がなる両者のどっちが喋ってる状況なのかがいまいち掴みづらくなってきたけど、要するに、私らが一回戦を不戦勝で勝ち上がって、その次の対局を、いま、この場でやろうってこと? 


「……運営の意思では無さそうだね……あの覆面ふたり、イレギュラーな存在と見た」


 傍らの主任は、落ち着いた声でそう言ってくれるけど。その表情は、やはり私と同じくらい死んでる。


<『No.10801』のお二方っ!? 勝手な行動は慎んでいただきますッ!! これ以上の運営妨害行為に対しては、即時失格とさせますよっ!?>


 実況……じゃないな。女の声だけど、明らかに狼狽しまくってる高めのトーンの音声が響いてくる。運営の……もっと偉いやつっぽい。何と言うか、覆面怪人共が運営の手の者じゃあないってことは分かったけど、分かれどもどうしようもないな……


「ぶわかやろうッ!! おんどれらがチンタラやっとっじょからやろうッ!!」


「『運営』云々の話じゃもう無くなってるんだわいなッ!! ひと言で言うのなら『巻く』ッ!! 巻いて巻いて展開早めないことにはッ……!!」


 「♂」と「地図記号:工場」がまくし立てる、ちっともこちらの理解を促して来ない言葉たちだったが、その覆面輩たちはそこで一瞬タメみたいなのを作ると、


「「……この世界が……エタる恐れがあるのだもし……」」


 一転、低く太い声でそう重々しくシンクロしてきた。いやよう分からん。しかしエヒィ、みたいなハウリング音と共に、


<そそそれだけは回避しないとぉぁぅッ!!>


 「運営」女の引き攣った叫びが場を制していく……何だろうこの展開。とかまだ真顔で思っていたら、


<ではッ!! これより『No.07770:ミズクボ&サイノ』ペアとッ!! 『No.10801:匿名希望・S極くん&M極くん』ペアの対局を行うこととしますッ!! 対戦形式はぁぁぁぁ……>


 展開という名の歯車がごぅんごぅん廻っている虚像が私には見える……そして飽いている……ッ!! この世界を司る者は、刹那的/滅裂な展開を所望しているということが……脊髄を通して感知されてくる……されまくってきてしまったりしている……


<……『DEPデプ着火インフェルノォォォォオオウ』ッ!!>


 うぅぅん、混沌カオスッ!! イツァケィォォォォオオスッ!!


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