♮156:本番ですけど(あるいは、それが/モラルの/披露場)


 先ほどのホールを突っ切った奥、両開きの頑丈な扉の向こうには、少し小さめのホールがまたあった。まあそれでもプラネタリウムくらいの規模はありそう。「プラネタリウムの規模」というものが定まっているかは別として。


 <各自、『ブース』内にお入りください>


 実況少女の声は相変わらず特徴らしきものを掴ませないまま、そのように促してくるけど。「ブース」と呼称されたのは、ホールの丸い壁面に沿って設置された、「お立ち台」のような代物であった。見た目直径1mくらいの円筒状のその脚場の高さは、床から50cmくらい。転落防止か、金属の手すりのようなレールが、おそらくそこに立ったら腰ぐらいの辺りの高さのところを、ぐるりと巡っている。


 <腰に『オクトパービューリィベルティオ』を装着していただきます。すなわち、『腰の動き』のみで、皆々様の『VR体』は前後上下左右に、自在に動き回るという寸法なわけです>


 言ってる意味の5割くらいしか理解の及ばなかった僕だが、係の黒服らが「ブース」に入った僕たちの腰回りに、手すりレールから引っ張ってきたカラビナ付きのコードのようなものをがちゃりと固定していくのを見て、なるほどと思った。


 計八方向から腰を引っ張られるようにして固定される。何も力を入れなければニュートラル。傾けたり、ひねったりすると、それに合わせて「コード」も動く。おそらくそれによってVRでの自分を操作するんだろう。まあ、そこは慣れるしかない。それよりも。


 両手は空いているので、それで武器、「武装」を操ると。やっぱり「撃ち合い」が主体な気がしてきて、やばいんじゃないの的考えが今更、頭の中を占拠してこようとしてるけど。ええい、気持ちで負けたらダメだッ!! それにしても推定140人がずらり円を描いて並んでいる図は壮観だ。見知った顔がいる気がしないでもなかったけど、僕のあの大会時の記憶は厳重に鍵がかけられているようで、僕の脳細胞らは、おいそれとは出してきてくれない。


 <この『ファイナル予選』では、『50組』の脱落をもって終了とします。DEPを『充填』した『武装』により、相手の眉間の一点を撃ち抜く……想像しただけで、わくわくしてきますねっ>


 この実況少女も掴めないままだけれど。とにかく、初っ端は「見」で通した方がいいような気がする。「DEP充填」すると居場所が他に知れるんでしょ? そこ狙われるよね。いやでも狙う側も「DEP充填」してないとダメなわけで……あれ? 鶏が先か卵が先か……どうなんだ?


 例によっての例の黒四角の「バイザー」を目の前辺りに固定されると、水色の準備中と思しき画面が視界いっぱいに広がる。<開始前:0:58>の表示。あと一分弱でいよいよ始まる。始まってしまうんだ……


 ペアであるところの翼とは隣り合わせの「ブース」だけど、アオナギとかとは結構離れた位置座標にいる。今から作戦も何もなさそうだけど……ほんと、どうしよう?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る