#137:線形で候(あるいは、裏表/表裏/サニーサイダー)
「あ~はっはっはっは。対局承諾と、そう取っていいのかい? 流石は『戦慄のニューカマー』。予選一戦目でのあの無差別乱撃……どえらい新顔が出て来たもんだと、まさに戦慄したものさ……『元老』側の人間としてもねえ」
横並びで対峙したのは、妙齢の女性であった。我々は黒い長方形をした「バイザー」で目許を隠されているはずであるが、そこに映し出される「中の世界」においては、各々の顔がよく見えるようになっている。そういったことも可能なのだろう、と思うしかないのであるが。
緩くカーブがかかった黒髪は、肩よりも長いだろう。
腹から出していると窺われるよく通る低い声は、一言一句正確に紡ぎ出されてくるので、
こちらを妖しげな瞳で睥睨してくるその態勢は、体の右側を下にした横向きであり、その女性の背後には寄り添うようにして影の薄い男性らしき存在が確認されるものの、その顔は女性の頭に隠れて窺い知れない。ただ男性の左手は女性の左膝辺りを抱え上げるようにして保持されており、そこだけは何故か存在感を否応にも感じさせる。
「……」
当然、女性は左脚のみ膝を折って開脚させられている状態であって、体全身を覆っている紫色の薄地のぴたりとしたスーツという恰好と相まって、非常にこちらの琴線を揺さぶって来るのであった……
いや、揺さぶられている場合では無い。私が……この私が戦わなければならぬのだ。気合いと平常心……この二つを持ち続けることが重要と、ギナオア殿も言っておられたではないか。呼吸を深く長く整えていく私。と、女性が蠱惑的な唇をゆっくりと開いていった。
「……私の名前は『
やけに挑発的な物言いである。整い過ぎたその色素の薄き細い顔を殊更に妖艶に歪めながら、その女性-チギラクサはそうのたまうが。
「……軽くやってみろ、ジローネットよ」
私に馬乗る態勢の姫様からも、そんな多分に相手を刺激するであろう言葉が紡がれてくるわけである。互いにの視線がぶつかり合うサマを、下方より見上げるというあまり無い状況下で、私は必死に「気合い」と「平常心」という相反するものを同時に自らの内で練り上げるということを試みている。
「大した自信……もしかしてこちらの色男も『
ますますこのチギラクサ嬢の言っていることが分からなくなってきた。日本語が理解できないのではなく、内容が思いもよらなさすぎる事に起因している。何だ? 「ジュウジ」とは。リアクションもままならない真顔のまま、私はただ硬直するばかりであるが。
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