♮126:界隈ですけど(あるいは、ニーザーランズ/ネイバーフッズ)


 本質。


 搭乗機を加速させながらも、やはり僕はそこに引っかかっているようだ。高速で流れる高度3000mくらいのところを時速60kmくらいでかっ飛びながら、思考はそれ以上の速度でぐるぐると廻っているかのようであり。


ダメの本質。 ……と言ってもそれは何なんだろう……。ダメな自分のダメなエピソードを曝け出して、共有し、昇華させる。それによって魂を浄化する祭典……かつてアオナギがのたまっていたことを改めて思い返してみるけど。


 僕にも色々、内に抱え込んでいたことはあった。それらを全部吐き出したことによって、少なからず心が軽くなったことは確かだ。思わぬ理解者も現れたりして、魂を救済されたりもした。


でも、だとすると今のこの「戦い」は何だろうってことにならないか? 吐き出しているのは、愚にも付かない異常性癖ネタでしかないじゃないか。もっと真摯に、向き合わなければならないんじゃあないだろうか……


 最高速に近い速度で、僕と翼を乗せた搭乗機は、相変わらずの四つん這いの僕の背後に翼を従えたまま、空中を疾駆している。飛び去るように後方に流れていく周囲の対局者たち。そのうち半分くらいが、次々と推力を失って落下していくのも見て取れた。


 僕の葛藤の間も、対局は続いている。視界の右上らへんには、「17,928ナジー」との表示が為されているが、これがイコール燃料の多寡を示す指標であり、「通常速度」……おそらく体感だけど「時速60km」で、「1km」飛ぶことが出来るエネルギーが「1,000ナジー」と設定されていると推測した。


 その下には「ゴール」までの残り距離も示されていて、今の数値は「残96.229km」。まだまだ先は長いし、そこに到達するためには他の対局者を倒して、持っているエネルギーをぶんどりつつ、進んでいかなくてはならない。あれこれと悩んだりしている暇は無いのは重々分かっている。


 ここはもう勝って先に進もう。あれこれ思い悩むのは、敗退してからでも遅くない。僕の放つDEPがまだ力を失っていないのなら。評価がまだ為されるというのならば。


 行くしかないんだろう。いや、自分の意志で、行くんだ。


 僕はもう何度目になるか分からないけど、肚をくくりにくくり直すわけだけど。


その一方で、先ほどコライが言っていた、「獣の文字」なるものも気にはかかる。


 「108の同胞」とかも言ってたよね……非常にいやな予感なんだけれど、その、心に「獣」を宿した強敵たちが、参加者の中に相当数混じっているだろうことは、何となく肌に沁み込むようにして感じ取れている。


 いつぞやの「元老」みたいなものか。いや、それよりももっとタチは悪そうだ。自分で言うのも何だけど、僕自身の「淫獣」と呼ばれる能力モノ、それは、かなりの反則級の問答無用さを有しているわけで。


 そんなのとぶつかったらコトだ。でも「対局」は休まず続けていかないといけないわけだし……なら、弱そうな奴を見つけてこちらから仕掛けていくか? いや、「弱そうな奴」はダメだ。この業界では見た目弱そうな者ほど、恐るべき力を秘めていることが多いから。それはもうかなり経験済みだから分かる。逆だ。


 「見た目強そうなヒト」。それを……狩るッ!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る