♮113:序幕ですけど(あるいは、プレーナビス/六等星からの使者)
なし崩し的だが、遂に戦いの火蓋が切って落とされる……ッ、と意気込んで振り返ってみたものの、僕の目の前には、そこだけ色彩が淡くなってないか? と錯覚をせんばかりの二名の対局者たちが素っ立っていたわけで。
「ここで会ったが」何とやらとか言ってたけど、いや、ほんとに面識はないよね……との凪ぎメンタルにてその二人を見据えることしか出来ない……
これほどまでの中肉中背がいるのだろうかと思わせるほどの体躯。真顔と半笑いの中間のような笑みを浮かべた若い男性だ……それ以外に描写が難しいほどの人材だ……足元に広がる人工芝の黄緑色に溶け込むような黄色と緑の細いチェックのシャツを着ているけど。保護色か?
「ふふふ……リベンジと洒落こもうじゃあないか、
もう一人はいい感じの浮世離れを呈してくる、長髪眼鏡のガリガリくんだが。「リベンジ」。……何か以前にしがらみあったかのような言いようだ。うーん、思い出せないけど。
「そうですね……
存在が希薄な「羽野」と呼ばれた方が、空気を吐くような掠れ音声で相方を呼ばわるけど待てよ。八田……八田……何か聞いたことある。そしてあまり思い出しても益の無いことを思い出そうとしている自分にも気付く。
―
―は、
おったな。あれだ、先の「大会」予選にてぶつかった、ドプロコッカス|根津(ねづ)の、チームメイトだった輩たちの一人だ。でも八田はともかく、もう一人は甚野って言ってなかったっけ……僕は自分でもよく思い出せたな、と思うほどの記憶のどぶの底に沈んでいたその益無し情報を、まったくの不本意ながらも引っかかってしまったから引っ張り上げるわけだけど。
「てめえらっ!! ここにおわすお方をっ、室戸ミサキと知っての狼藉かっ!!」
そして当然のようにその流れに食い気味に乗っかっていこうとする翼。その未だ定まらないキャラも立ち位置も流石にどうかとは思うが、物事を進行させようとするその気概だけは受け取った。
だから、ここは任せて欲しい。
大層筋肉質なその左肩に僕は右手を乗せると、振り返ってきたよく似た顔に無言で頷いてみせる。途端に卑屈そうな笑みを浮かべて、へへへ、そいじゃあ大将、一発頼みやっしゃ、のような定まらない言語にてにじり下がるけど。ほんとお前これからどう定めていくんだよ、みたいな不安も収まらないけど、今ここでは、やるべきことは決まっているわけで。
「対局っ!!」
何故かキメポーズのように構えてみた。だが、いい。それでいい。気合いを……入れるんだ。僕の仕草につられるようにして左手首のバングルを提示してくる、八田と……薄い存在感の羽野。と、目が合った瞬間に思い出した!!
……初めてアオナギに連れられて、居酒屋「ボイヤス」吉祥寺南店を訪れた際、丸男が勧誘してきたとか言って拉致寸前に連れて来られていた、あの薄い人じゃあないか……っ!!
……いや、何つうか、全員出て来るな。抗いようの無い磁場でも展開しているのか?
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