♮053:追跡ですけど(あるいは、デジャブリック少年ダブルM)
井の頭通りを北へ進路を取っているこのクルマは、一体どこに向かおうとしているのか……
「むうう、ここまでムロっちゃんの情報が流れているとは、流石ねぇん。大会が迫ってきてなりふり構っていられなくなったっていうかぁ、ま、ひとことで言うと、大分キナ臭い」
周りにバカヤローを連呼しながらのジョリーさんの荒い運転に、僕は隣に鎮座するというか折りしもの満月を見上げるようにおっ立っている
「あの人たち……ひとり顔見知りがいたんですけど、ひょっとして『元老』っ、なんですかっ」
風が猛烈に吹き込んでくる屋根無しジープの後部座席で、急で細かな車線変更により右に左に体を浮かせられながら、僕は叫ぶようにして問う。
ひょっとしなくてもダメ界を牛耳る謎組織「元老院」であろうことは薄々分かっていたものの、念のためとばかりに聞いておいた。敵のことは把握しておくに越したことはない。
「『元老崩れ』ってとこかしらねぇん。アタイもよく知らない面々がいたけど」
「あいつらの噂なら聞いたことあるぜ!! 最近売り出し中の新興勢力がひとつ……『
いきなりつらつらと喋り始めた翼だったが、言ってることの2割3分も意味は分からなかった。ただ、ひとりあぶれた分の補充のように考えられているのならば、心外でもある。いや、そんなプライドを持ってどうする。
「ま、物騒な輩ねぇん、相手にしない方がお得ってもんかしらぁん」
ジョリーさんは言いつつ傍らのホルダーに差していたスマホを引き抜くと、何か操作をしてから、助手席の翼に持っててぇん、と差し出す。
「あっらーお元気ぃ? ……ジョリちゃんよぉん、夜分遅くに悪いんだけどぉん、ちょっくら匿ってほしいってす・ん・ぽ・うぅー、うふふ、そうそう、3名でぇ……あ、そうそうムロっちゃんよぉん、うんうん」
どでかいトルクをぶん回しながら、平然とそんな感じで通話を続けるジョリーさんだけど、相手はもしや……そしてこのクルマが向かっている先はもしや……
聞いても詮無いことだし、かなりの確度でそうだろうと思ったので聞かない。その代わりに、ひとつ気になっていた、いや、それほどでも無かったけど、一応聞いておかないと寝覚めが悪いな、と思っていたことを聞いてみた。
「あ、あの……トウドウさん(丸男のこと)は……?」
「後から合流するつもりよぉん、あの状態のままだと連れて来れなかったしぃ、在来線で向かえるだけのおカネは置いてきたから。大丈夫ぅー」
まあ大丈夫か。それよりも前回の大会前の行動をなぞっていることに気付き、暗澹たる気持ちになる。これも……磁場か。
何事もなく大会まで漕ぎつけてくれよ……と頭の中で念じてみるものの、えてしてそういう願いじみたことを考えると、真逆なことをぶっ込まれることは骨身に沁みていたので、なるべくの無心で、傍らの原付を真顔で抱き締めるにとどめる。
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