♮045:勘弁ですけど(あるいは、慟哭斎の/メメント盛り盛り)
唐突だが、走っている。
「……!!」
度を越した緊張感の中で全力走りをかますと、長距離を疾駆しているものの、無酸素運動のままで全身が強張ったまま進行するという、いたってどうでもいい事象を実感している。
深夜の井の頭通りを、とりあえず駅方面に向けて全力疾走。人通りはまだまだ途切れず、その合間合間をすり抜けて走る……ッ!!
何゛て゛こ゛ん゛な゛こ゛と゛に゛な゛っ゛ち゛ま゛っ゛た゛ん゛た゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ゛!!
電飾に埋め尽くされた夜空に向けてそう吠えたくなったものの、今でさえ道行く人たちは全力疾走する僕を何かの撮影かと思ってスマホを向けている状況なのであって、そんな濁点混じりの絶叫でもしようものなら、SNSには確実に上がってしまう。そしていたずらに「追跡者」を増やしてしまうことにもつながるはず。
それは「追手」に居場所情報を逐一リアルタイムで与えてしまうことに他ならないわけで、僕はこの高度情報化社会に一石を投じたい気分が肺の中の酸素と反比例するかのように高まっていくのを感じながら、身を隠すべく、脇道に転がるようにして逸れる。
例の控室で、翼との再会を果たした後 (まったく想像しても望んでもいなかったけど)、コンビを組もうと勧誘されて、いや、全然ありえな過ぎて、リアクションのリの字もままならなかった僕の空隙を埋めるかのようにして、またしてもいきなりバァンと扉がこちらに向けて開いたのである。場面転換がありきたりに過ぎるだろと思ったり突っ込んだりする暇は無かった。
「……全員、手を挙げて壁に手をつけろほぉいっ!!」
こちらを威嚇してくるテンプレ気味の女性の金切り声に、もちろん却って動きを忘れてしまったのだけれど。丸男も、ジョリさんも、翼も。その場にいた面々も真顔で動きを止めている。
その縮れた長い茶髪に、目の覚めるようなつるりとした質感の純白のカチューシャを留めたバタ臭い顔の女性が伸ばした両手に保持していたのは、銀光りに鈍い存在感を放つ、拳銃であったわけで。本物かどうかは僕には分からなかったけれど、その何かがキマってしまったかのような瞳孔開きーの、浅く早い息遣いーの、と、尋常ならざる感を不断に出し惜しみしないそのスタンスに、歯向かったらあかんの警報が大脳内で鳴り響いたので、大人しくそれに従わざるを得ない。
このテンプレ感は知っている……っ、「ダメ」だ。「ダメ」の手の者であることは全脊髄で理解を終えていた。目的は……おそらく生涯賃金をオーバーしてしまったほどの多額の借金を抱えた丸男の確保……?
やはり早急にどこぞの山中にでも捨ててくれば良かった……でも、これでなし崩し的に「ダメ」からは解放されるよね……とのよく咀嚼もできないような思いに捉われつつあるけども。
コトはそう単純では無かった。
いや、単純は単純だったのだけど、その単純さのベクトルが向いている方が違かった。
賢明な諸兄にはもう既にお分かりだろうが、その矢印の切っ先は他ならぬ僕であったわけで。
……ぼ、僕には忌まわしき
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