#004:絶世で候(あるいは、美魔神/降臨GO/for theピーポー)
呆気に取られていた私と、巨大な円卓を挟む格好で、その痩せた男は対峙している。にやにやとした品の無い笑いをその長い顔に貼り付かせながら。
「味方」と言っていた。「味方」……本当にそうなのであれば、藁にでも縋りたい今の私には、願ってもないことだが……この男、本当に信用に足る者なのだろうか。そして状況をどこまで把握しているというのだろう。「姫様の完全なる護衛をしつつの、下界への行軍」……いや、そこまで大仰ではないだろうが、しかし、困難さはその言葉の重さに匹敵するだろうと私は考えている。
「この国の『大動脈』……『エヅナラァ=ヘィロ』まで出ちまえば、後はクルマでルワンダまで一日かかるかどうか。そしてキガリ空港からハマド経由で日本まで、それもおそらく二日余り。要はこの『下山』、そこに厄介さは集約していると、俺はそう考える」
その正体不明のギナオアと申す者から、気怠そうに放たれた言葉は、しかし、私の考えていることと相違は無かった。国道まで出れば、足はどうとでもなる。この者……やはり見た目に反して的を射たことを……いやしかし、そこに至るまでだ。「困難」「厄介」は重々承知している。そして承知しているだけでは駄目だということも。
それを解決する手段が必要とされている今、それが……あるというのだろうか、この者には。
相変わらずの読めない笑いを形作るその何とも形容しがたい灰色がかった唇から、その答えと思しきものが紡ぎ出されようとした、まさにその時だった。
「……!!」
衆議の間の、場の空気が瞬間、変化したのを感じる。開け放たれた扉の向こうに、錫杖が奏でる涼やかな音色と共に現れ出でたのは、他でも無い、アロナ=コ様の、神々しくも可憐なる御姿だった。
あまりに突然のことに悲鳴のような畏れの声を上げながら、臣下の者たちがバタバタと石床に倒れ伏すようにひれ伏すのを阿呆のようにただ見ていた。ただひとり、
光が当たっているわけでもないが、姫様の体からうっすらとした輝きが放たれているのを、確かに視認している。
間近で見る姫様は、心無い臣下の者たちが揶揄するような、「異様さ」を持っているわけではなかった。この国においては、肥沃かつ豊潤なる肉体こそ美しいとされている。恵み乏しきこの国土において、肥え太ることこそ、大地に愛されし者の証であるとされているからだ。
よって、陛下を始め、王子王女の皆、立派な恰幅を保たれている。ただし、この第四王女、アロナ=コ様だけは、御両親のどちらにも似ず、貧相な……いや失礼、小鹿の如き、頼りなげな肢体をされている。兄王子殿からは「棒切れ」「瓢箪ちゃん」などとからかいを持って呼ばれているほどであるが。
だがしかし、私の目にはその御姿が、どうにも美しく見えてならないのだ。
「清浄」を表す眩いばかりの青空の色のローブは、姫様が滑らかな所作で動かれるたびに風を孕んで揺蕩うかのように優雅に踊っている。しなやかな曲線を描くか細き二の腕は、艶めきを帯びた褐色。そしてゆったりとした布地に包まれていても、その存在はしかと判る、細身の御身のなかで何故かそこだけは豊かさを湛えつつツンとせり上がりし双丘。凛とした小作りなご尊顔には、鋭く力を持った大きく黒い瞳が氷の如き冷たくも美しき輝きを……嗚呼ッ、とても直視などしていられない!!
遅ればせながらも床に勢いよく額をごすりと突きながら、私は普段、教師の真似事をしている際には決して近づくことの無かった距離に、姫様がずいずいと歩み寄られてきていることを頭頂部の毛根で感じ取っていた。そして、
「ジョシュア・ジローネット。此度の件、わらわに詳らかに説明せよ」
鈴を鋭く鳴らしたような御声で、ひれ伏す私の側でそうおっしゃられる。私はと言えば、姫様の御体から漂ってくる香の匂いに脳髄を揺さぶられながら、その美しく整い装飾を施されたおみ足の爪の辺りを、瞬きも忘れ、凝視していることしか出来ていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます