第21話 アルフレッド

「…うわぁ」


 アルフレッド邸の一室。アンティークな趣の家具に彩られながらもどこか陰鬱そうな雰囲気を醸し出す部屋の中、奥に一つだけぽつんと置いてある椅子に一人の男が座っていた。


 男は歳は30代半ばといったところだろうか。ボサボサの髪はあまり洗っていないのか不自然な艶をまとい、その隙間から覗く瞳は焦点が合っておらず空虚を見つめている。


 もとは高かったのであろう、襟の端に金糸の刺繍があしらわれた紺のダブルスーツはヨレてところどころシミになっている。


「……彼がアルフレッド、この家の主人だよ」


 主人と言われた男を和夫はじっと観察する。どこにも焦点を合わそうとしない男の視線にはどこか既視感が感じられた。


 和夫が中学校の時にいたクラスのパシリ少年。言うことを聞かされるのがつらくて、悔しくて、それを感じ続けることに耐えられなくて、”何も感じていない”フリをしていた身体の小さな少年のことを思い出す。

 

 それと同時に、憤りはしたが自分の立場を賭してまでは何もできず、少年がそのまま転校してしまったときのやるせなさも同時に思い出し、和夫は小さく俯いた。


「ふーん……、あのぉ」


 和夫はアルフレッドに向かって恐る恐る声をかけるが、そのうつろな瞳は虚構を見つめたまま。


「無駄だよ、彼今、落ちてる時期だから」


 よくはわからないが精神的に落ち込んでいるということであろう。誰かの問いかけに反応するエネルギーすらもったいない状態なのだろう。和夫はそう自分を納得させた。


「なるほどねー、で、ジブンあれなん? 落ち込んでるアルフレッドさんをずっと世話してる感じ?」


「……いや、彼がこうなっているのは、僕のせいなんだ」


 ノリスは言いながら表情を曇らせる。


「……僕がやったと言ってもいい」


 ノリスの放つ重苦しい空気に、和夫はここに来たことを少し後悔する。


 拓郎はワクワクと若干前のめりの姿勢。


「――なあ、場所変えへん? この人の前でその話すんのあんま良うないやろ?」


 ノリスは少し驚いた後、


「……そうだね、ごめん。どうやら僕は彼を傷つけることに慣れすぎてしまったようだね」

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