第28話 ちょ待てよ!!
「ああっ、また見失った!? 未来さんフィリア何処っ!?」
「『えー、百メートル先を右折で、訂正。五十メートル先を右に行けばそこの路地で――ああっ、また曲がった!』」
「フィリアめぇ、適当に走ってるな?」
追跡開始から十分、英雄はフィリアを見事に見失っていた。
(あー、くそっ、考えろよ脇部英雄っ! 僕なら出来る! 泣いてる女の子に追いつけないで何が脇部英雄だ!)
「地図! そうだ地図だ! 未来さん! フィリアが向かってる方角って分かるっ?」
「『そうですね、やたらくねくね曲がってますが……、これは――学校、ですかね』」
「よぉし、となればだ! あ、叔父さん! 良いところに! その車、ちょっと乗せてよ!」
「よぉヒデ坊じゃないか。どうしたんだ? 冬だってのに汗だくで」
「へへっ、ちょっとカノジョ泣かせちゃってね。追いかけてる所なんだ」
「かーっ、ヒデ坊ももうそんな年かっ! 俺も年をくったなぁ……、初めて見たときはあんなに小さかったのに」
「思い出話はいいから、ドア開けて乗せてくれない? 仲直りしたら叔父さんのゲーセンへ一緒に遊びに行くからさ」
「俺を足に使うたぁ、ヒデ坊も偉くなったもんだな。良いぜ乗って行きな! ここで協力を惜しんだら脇部一族の名が廃るってもんよ!」
「ウチって、一族って言うほどだっけ?」
「ははっ、分かってだろ? 気分よ気分、ウチは代々楽しく過ごすがモットーだからよっ! まったくお前は曾祖父さん譲りだなぁ……、んで、何処に行く?」
「僕の学校にお願い、それから――。ああ、この拡声器貸して? というか何で車に乗せてるの? 随分とぼろぼろだけど」
「そりゃあ、俺のカミさんとの思い出だからよ! 懐かしいなぁ、良くこれで愛を叫んだもんだ。……それでお前は何に使うんだ?」
「奇遇だね叔父さん、僕もこれでちょこっと愛でも叫ぼうかと思ってね」
「そりゃいい! ついでにコレも持って行きな!」
「なにこれ……って、コンドーム? なんで持ってるのさ」
「カミさんがな、三人居たらもう子供はいいって言うんだよ悲しいなぁ……」
「三人も居たら、普通はもう十分だって思うけど…………ね、これ穴開いてない?」
「ああ、ちょっとしたサプライズさ! まぁ見抜かれてるから俺の用意したのは使ってくれないんだけどな!」
「叔父さんさんぁ」
「何だ、呆れた声を出すな。お前の親父はそれで結婚する羽目になったし、俺たちの弟はそれで結婚させたんだぞ?」
「聞きたくなかったよそんなのっ!? どうりでウチの結婚式でると新婦さんってば全員お腹大きい訳だよっ! どうなってるのさウチの家系はっ!?」
「何でかなぁ、ウチの家系は男も女も、愛が重いか、重い奴にひっかかるんだ。――お前は心当たりないか? 一度、一族総出でお払い行った方が良いと思うんだが」
「ヤバい、僕もその脇部の呪いにかかってるよ叔父さん!?」
「そっかぁ……頑張れヒデ坊。上手くヤらないとお前もデキ婚だぞ。さあ着いた!」
「――決めたよ叔父さん。僕、絶対にデキ婚を阻止してくる!!」
何だかんだと言って、フィリアと結婚する事を前提に決意を固めた英雄であったが。
ともあれ、拡声器を握りしめ車から降りる。
「グッドラック! ヒデ坊! 愛してるぜ!」
「僕も愛してるよ叔父さん!」
「祖父さんから教えられた脇部家家訓は覚えているな?」
「愛情は口に出して行動で示せ! 正しく人生を楽しめ! 楽しんで大往生!」
「よぉし! その意気だ! じゃあな!」
そして英雄は、校庭のど真ん中でフィリアを待って。
彼女は十分程遅れて駆け込んできたが、彼の姿を見て回れ右。
「【愛するフィリアっ!! どうか待って欲しい!】」
「――っ!? い、いきなり何なんだ英雄っ!? 私は君と一緒には」
「【僕は、脇部英雄は! 這寄フィリアと一生を共にする事を誓うよ!!】」
「う、ううっ!? なんで一々拡声器を使うんだっ!? ――おまえ達見るなっ! 見せ物じゃない!!」
「【いや、居てくれ皆! 僕達の愛が成就する所を見ててくれ! ――愛する僕のフィリアよっ! この世で最も素敵な女の子フィリア! 君が僕の側に居てくれるならっ! 拡声器なんて使わないで耳元で囁くよっ!】」
「~~~~~~っ!! つきあってられるかっ!!」
「【逃げたら、動画サイトで君への愛の言葉とラブソングを撮った動画を毎日投稿する。実名でだ! これでも逃げるかっ!!】」
「分かった! でも少しだけだ! 君と話すのはこれっきりだ!」
「【いえーい、やったね! 僕ってば大勝利!】」
「いいからそれを止めろっ! あと、頼むから見ないでくれぇ!!」
端正な顔を両手で隠しながら、とぼとぼと近づくフィリア。
英雄はニンマリと笑って近づくと。
「はーい、がしゃーん。つっかまえたー!」
「はうあっ!? 手錠だとっ!? 何て卑怯なっ!? 外せ! 今すぐ外せ!!」
「残念だけど、未来さんが鍵を持ってるから。っていうか君が言う? 僕を拉致監禁した癖に」
「あれは君が悪い」
「純情な感情が三分の一も伝わらなかったからって、強硬手段に出るの違うと思うよ?」
「では君の行為は何だ? 私と同じではないか!」
「全然違うね。僕のは、――君へと気持ちを伝える為だから」
「残念だが聞く気は無い」
「どうして?」
「だって…………、私は、君に……」
俯き口ごもるフィリアの顔を、英雄は両手で掴み。
「はい、ちゅう」
「――……? っ!? な、何をするんだっ!?」
「今から君がネガティブ発言する度に、僕はキスしまーす!」
「言論規制だ! 横暴だ!」
「はいキス」
「~~~~っ!? ぷはっ! 今のは抗議だ!」
「口うるさい女の子を黙らせるには、キスって相場が決まってるでしょ」
「…………英雄、それは何処の海外ドラマの台詞だ?」
「嫌だった? フィリアが最近買ってる少女マンガの台詞だったんだけど」
「本当か? 記憶に無いぞ?」
「ほら、十七巻あたり」
「私はまだ九巻を読んでる最中だ! ネタバレするんじゃないっ!!」
「なるほど。じゃあ――、その身を持ってネタバレを経験するってのはどうだい?」
「私に何をするつもりだっ! あの少女マンガは結構過激だっただろうがっ!!」
「濡れ場シーンもあったからねぇ」
「あったのかっ!? するのかっ!! 断固拒否する!」
「大丈夫、このコンドーム付けるから」
地団駄を踏むフィリアは、コンドームをちゃっかりしまいながら叫ぶ。
「穴が開いてるじゃないかっ!! ~~~~っ!! ああ、もうっ!! 監禁した時と言動が全然違うぞ! どうしたんだっ!!」
「一言で言えば……」
「言えば?」
「君ってば恥ずかしがり屋だから、いくら攻めてもヘタれるでしょ」
「ヘタれなかったらどうするのだ」
「僕に最高にカワイイ巨乳のカノジョが出来る」
「うう~~っ、君は私に何を求めてるのだ!!」
羞恥と混乱で涙目になるフィリアに、英雄は柔らかく微笑んで。
「僕はね、君と一緒にいると楽しいし。この先もずっと一緒に楽しめればって思うんだ」
「だが私は、……全てに嫉妬して狂う女だ」
「はいキス」
「ん……、はぁ、また机兄妹に嫉妬する」
「またまたキス」
「ん……――、君が他の女と喋るだけで、見るだけで苦しくて監禁したくなる。そんな面倒な女なんだ」
「もう一回キス」
「…………ん。恥ずかしがって、君とセックスする勇気が持てない面倒な女なんだ」
「更にキス」
「ん。……なぁ、癖になりそうなんだが? 幸せすぎて死ぬのか私?」
「ここで残念なお知らせ、キスのサービスは終了となります」
「何っ!? 今度は寂しさで死んでしまうぞっ!? ウサギさんは寂しいと死んでしまうんだぞ!」
「バニーガール姿になってから言ってどうぞ? というかね、そういうのは。――これからのフィリア次第」
邪気の無い英雄の笑顔に、フィリアは妙に嫌な予感を覚えながら恐る恐る上目遣いで。
「私次第とは?」
「僕はね、フィリア。君を更生させる事に決めたんだ」
「更生?」
「僕が友達と遊んでいても平気な様に、見知らぬ女の子と同じ空間に居るってだけで嫉妬で狂わないように、――――僕に、メンドくさい嘘なんてつかないように」
「そうしたら、私は君の側に居る資格が出来るのか? 愛される資格が出来るのか?」
「フィリアが僕の隣に居るのに、資格なんて無いさ。愛情だってそう、僕は君を無条件で愛する。……君だってさ、僕の事を条件付きで愛してるの?」
「違う。英雄の事は――――、ああ。そう、なのか……」
「そうだね、一緒だ。でもフィリアはこれだけで全てが治る訳が無いでしょ?」
「ああ、そうだ。感情は押さえられないからな」
「そこで、またまた僕に考えがあるんだ! これを聞けば君も納得して喜んで同意してくれるって思うよ! ――聞いてくれるかい、僕のお姫様」
「台詞が臭すぎだ。……だが、聞こう」
手の甲にキスしてみせた英雄に、フィリアは微笑んで。
ドキドキと胸が高まる、彼はどんな素敵な提案を言ってくれるのだろうかと期待が膨らんで。
「僕のオンナになれ」
「ふむ…………、もう一回言ってくれ?」
「僕のオンナになれ」
「それは――カノジョとか恋人とか、結婚相手とかと何が違うんだ?」
「全然違うよ! 僕は今回の事で反省したんだ! フィリア、君という超絶可愛い素敵な女の子だけど、暴走し過ぎて周囲を焼け野原にする女の子に主導権を預けるのは危険だって」
「どうしてそうな――――、いや、そうなるな?」
「そうなるね。だからさ、僕のオンナになるって言うのは。主導権が僕、君は僕の言いなりの都合の良いオンナってコト」
「なんと御無体なっ!! 鬼か何かかっ!!」
「えー、妥当だと思うんだけどなぁ……。ね、想像してみて? 僕の言いなりって事は、君は僕に支配されてるって事なんだ」
「ふむ、興味深い。続けろ」
「これは契約だ。僕は一生涯、女の子はフィリア一人。その代わり君も僕一人」
「実質亭主関白な結婚では?」
「全然違う、君が良い子にしてラブポイントを貯めないと。僕は君と恋人にならない」
「つまり、ラブポイントを貯めれば結婚してくれるのかっ!!」
「僕のオンナ、僕の彼女(恋人)そして、僕の奥さん(夫婦)とランクアップするんだ! ――僕はね、対等な立場で恋愛したり結婚したいんだ」
「この提案そのモノが既に対等では無いのでは?」
「それを言われると痛いな。でもさ、これは僕が君の大きな愛情に対等に渡り合う策なんだよ」
少し頬を赤らめて苦笑する英雄の胸に、フィリアは顔を埋めた。
そして彼女は、彼の顔を両手で挟み。
「――――ん、契約成立だ。英雄、君の愛を存分に味わうとしよう」
「そうこなくっちゃ!」
「だが一つ言っておくぞ」
「どんと来い!」
「私は全力で君の理性を削って、君の方からこの契約を破棄させてメロメロにしてやるからな! 覚悟しておけ!!」
「それって…………セックスさせてくれるって事っ!!」
「勇気が出たらだ! 全ては君次第だ英雄!」
「よおし! やる気が出てきた! じゃあ今からラブホに行って――――あ、忘れてた」
「何がだ?」
「いや、実は助けに来てくれた皆さ。僕達の帰りを待っていてくれてて」
「…………遠回りして帰らないか?」
「謝罪の言葉を考える?」
「後生だ、私が君のオンナだというなら。可愛いオンナの我が儘を聞くのが男の度量というものじゃないか?」
「一理あるね。それじゃあ手錠を見せびらかしながらラブラブデートで帰宅と行こう!」
二人は仲良く家路についた。
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