第七章 登龍門 九
全国大会でなかなか勝てないジンクスを破ろうと、昨年就任の青山眞也監督が動いた。
冬から重いバットを降らせ、振り込み回数を増やし、スイング・スピードを上げていた。
「勝つには打つしかない。打席でも打者の間合いで打つため、早いカウントで打て」と。
徐々に実り始めた指導の成果は、今大会の三試合で十四得点を稼ぎ出した事実からも窺えた。
今、勢いに乗っている若手ゴールデン・バッテリーに、富士重打線も歯が立たない。
互いに「0」が並ぶスコアボードの均衡が破られたのは、四回表。
JR東海が二塁打と犠打で、一気に二点を先取した。
富士重もすぐさま一点を返し、さらに六回で追加点を加えてゲームは振り出しに戻った。
さらに続く「0」の更新。このまま延長戦にもつれ込みそうな気配を察してか、沼田の素早い指示が飛ぶ。
『佐波・白井スペシャル』が、いよいよ発動となった。
八回表、一死一塁で左の六番、村井一輝が打席に入ると万場はマウンドを降り、佐波の出番となった。
佐波は左打ちの村井と、続く左打ちの高廣英輝をあっさりと打ち取り、回を終えた。
迎えた九回表。先頭打者は八番、右打ちの相本という理由で、佐波は一塁に入り、白井の登板となった。
ところが、白井は相本に二塁打を浴び、代打でバント要員として右打ちの選手が起用されたところで場内は一時騒然となった。
なんと、右利きの一塁手の方が三塁送球に有利との理由から、白井を一塁に回し、佐波を登板させたのである。
結局バントは決められたが、次打者の一番、左打ちの佐藤将太を打ち取り、右打ちの二番、上甲数馬を迎えたところで、再び白井が登板。
白井は上甲を真っ向勝負のストレートで三振とし、沼田の見事な采配が吉と出た。
九回裏、上位打線からのスタートが執念の一打を次々と放ち、一死満塁の、またとないチャンスが巡ってきた。
菅野が投じた直球を打ち返した五番、岩島の当たりは二ゴロ。
待ちに待った甘い球を迷わず振り切ったが、当たり損ねた。
しかし、スピンのかかった球が幸運にも併殺崩れとなって、辛くも決勝点が入った。
優勝が決まった瞬間、ベンチから飛び出した富士重ナイン。
俺も磯部も、堪らず後を追って飛び出していった。
喜びを全身で表した活きのいい若鯉たちが、勢いに任せて跳ね、踊る。
たくさんの人差し指が、高く掲げられ、勝利の雄叫びを挙げた。
遅れること、磯部が渋る沼田の手を取り、表舞台に連れ出した。
上野を中心にした輪が沼田を抱え上げ、細身の体が二度、三度と空を舞った。
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