ユーカリ51枚目 うぎゅう(第一部エピローグ)

 グリモワールに触れないよう、慎重に街までやって来た。

 カワウソには街の近くの茂みに潜んでいてもらい、さっそく騎士団の兵舎を訪れる。

 

 ワーンベイダーに事件のあらましを伝えると、とんでもない大騒ぎになってしまった。


「秘宝を持ち帰るとは! ソウシ! 貴殿の活躍は後世にまで伝えられることだろう!」


 ワーンベイダーが俺の両肩を掴み、興奮した様子で告げる。

 彼はさっそく傍付の兵に事態を報告するように申し伝えたようだった。

 

 あのお。俺、コアラだし、あまりこう人間の街で騒ぎになりたくないんだけど……。

 

 ――ドオオン。

 勢いよく扉が開くというより、破壊されトリアノンが姿を見せる。

 

「ソウシ! 戻ったんだな!」

「あ、うん」

「ソウシは秘宝『グリモワール』を持ち帰ったのだ!」


 あちゃあ。ワーンベイダーが余計なことをトリアノンに伝えてしまったよ。

 

「さすがソウシだ! 祝杯をあげねばならないな! 今夜は宴だ!」

「あ、いや。それよりなにより、危険なグリモワールを何とかして欲しいんだけど」

「もちろんだとも! 帝国が探しているのは特に『世に災いをもたらす』秘宝なのだよ。これらの秘宝を封印するために、宮廷魔術師がいるのだ」

「ほ、ほう。そいつは、さっそく封印してもらいたいものだ」

「もう手配している。準備ができたら貴君に伝えよう」


 ◇◇◇

 

 ええ、そんなわけでグリモワールは街の外までやって来てくれた宮廷魔術師の集団にお渡しいたしましたよ。

 彼らは宝石で装飾された箱を持っていて、その中にグリモワールを入れたらすぐに封印術式なるものをかけた。

 続いて、その箱がすっぽり入るくらいの箱に封印術をかけたグリモワール入りの箱を入れ、さらに封印術をかける。

 みたいな感じで四重に封印をした箱を持って、宮殿に戻って行った。

 

 彼ら曰く、この箱には鍵がなく、どんな力持ちでも開けることはできないとのこと。

 掘りの下にある地下の専用の部屋にこの箱を保管し、常時扉の前に二人の兵を配備して厳重に管理するのだそうだ。

 

 かなり大げさだったけど、厄介なグリモワールの脅威が去ってよかったよ。

 まさかアンデッド化の原因が秘宝によるものなんて、俺も含め誰も思いもしなかった。

 これで、アンデッドが多発する事態も収束することだろう。

 

 ――その日の夕方。

 豪華な赤じゅうたんが敷かれた大広間に呼ばれた俺は、祝福の言葉を受けるのだそうだ。

 

「此度の活躍、比類なきものである。陛下より直々に言葉を預かっておる」


 異世界に転移した時に会った大臣とその取り巻きが俺を称える言葉を贈った。

 口元がピクピク震えていて、不本意ってのがありありと分かる。

 一緒に来たコレットはガチガチに緊張しているが、俺は笑うのを堪えるのに必死だ。

 あれだけ、けんもほろろに「役に立たない」と放り出した俺を褒めなきゃならないんだものな。


「『ソウシよ。そなたの活躍、比類なきものぞ。そなたに勲章と報奨金を授ける』」


 大臣のやつ、嫌そうに読み上げやがったな。

 勲章にも報奨金にも興味はない。そんなものよりユーカリを寄越せ。

 なんて言っても、彼らがユーカリを保持しているとは思えないから、黙っておくことにしよう。

 

 ◇◇◇

 

 勲章やらを全て謝辞した俺は、宴にも出席せず街の外までやって来た。カワウソとパンダが待っているからな。

 

「コアラさーん」

「お、早いな」

「酷いですよ。おいていくなんて」

「人間だったら、豪華な食事も嬉しいかなと思ってさ」

「そんなことないです。コアラさんがいなかったらダメなんです!」

「俺だけじゃなくコレットだって主役だったじゃないか」

「二人揃って、ですよ」

「そっか。そうだな」

「お詫びに、ぎゅーしてもいいですか?」

「お、おう」


 コレットが俺を抱き上げる。

 ぎゅーっとし、安心したように息を吐くコレットへやれやれと肩を竦め……られない。

 ガッチリと抱きしめ過ぎだろ。

 

「コレット」

「はい」

「街を出る前にソニアに挨拶に行かないか? 今ならそれなりに有名人になったから取次も楽なんじゃないか?」

「かもしれません。明日、付き合っていただけますか?」

「え。俺、コアラだし」

「関係ありません。そんなこと言うコアラさんにはこうです」


 コレットが俺の頭に手を伸ばし、思いっきりナデナデする。

 

「うぎゅう」

「可愛いです」

「……ソニアに会った後、世界樹求めて旅に出るぞ」

「はい!」


 今日は自宅まで戻って、明日また街まで来よう。

 コレットが俺を胸に抱いたまま歩き始める。

 彼女の動きにあわせるようにパンダとパンダに乗っかったカワウソが後に続く。

 

『パンダは笹が食べたいようです』


 パンダの目が不気味に光ったことを俺はこの時まだ知る由もなかった。

 

 おしまい。


明日、閑話をひとつ投稿します。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

コアラさんの冒険はまたいつか、はじまるかも?

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