ユーカリ48枚目 パンダパラダイス

 んー。どうやって倒そうか。

 広場の外周にある大木の上からスケルタルドレイクを見やる。

 エルダートレントの時は、奴を引き寄せ体の中に入ったんだよな。

 この巨大な骨の塊をバラバラにする……方法が思いつかん。

 

 俺とコレットは面攻撃に向いていない。パンダはパワーがあるけど、範囲攻撃ができないんだ。

 これまで弱点を潰す戦い方をしてきたから、針の穴を通すような精密性なら得意だけど逆は全く鍛えていないんだよなあ。

 弱点が分かっているのに、わざわざモンスターごと滅するなんて無駄もいいところだもの。

 まさかこんなところで壁にぶち当たるとは……。

 

「駄目だ。実際にスケルタルドレイクを見た感想だが、対応策が思いつかん」

「巨木のようなモンスターですものね。わたしの弓じゃあ、どれだけ使っても」

「仕方ない。ここまで来ておいてすまないけど、俺たちだけで仕留めるのを諦めよう」

「あ、当てはあるのですか?」

「ある。結局のところ、飽和攻撃をするなら戦いは数なんだよ!」

「ま、まあ、そうですね」

「脳筋に手伝ってもらうように頼む」


 この際仕方ない。オルトロスに炎のブレスを吐きまくってもらって、トリアノンに斧を振り回してもらおう。

 もちろん、俺たち三人も攻撃をするし、スケルタルドレイクの攻勢を逸らしたりする。

 

 だが――。

『ピンチ! パンダがスキルを発動します。レッツルーレット』

 パ、パンダあああ。何しとんじゃああ。

 いや、俺にも責任の一端がある。「勝てない、駄目だ」なんて呟いたから、パンダも自分たちが危機に陥っていると判断したのかもしれない。

『ユーカリの葉10枚をベットしルーレットスタート』

 お、俺のユーカリが!

 ぐ、ぐう。悔しがっている暇はない。すぐに動かないと。


「コレット。まずい。パンダがスケルタルドレイクに攻撃してしまう」

 

 隣にいるコレットに状況を伝える。


「え、ええええ」


 口では驚いているが、彼女は静かに矢筒に手を添え、俺の言葉を待っている。


「こうなったらやれるだけやるしかねえ。弱点が本当にないのか、コレットはコーデックスにいろんな角度から問い合わせしながらサポートを頼む」

「分かりました! きっとわたしたちなら何とかできます!」

「そうだな!」

 

 俺たちが会話をしている間に、無常にもルーレットは回転する。

『外れ。レッツルーレット』

 ……。お、俺のユーカリが……。

『外れ。レッツルーレット』

 ……。もうどうにでもしてくれ。

『パンダパラダイス』

 合計30枚のユーカリを消費し、パンダのスキルが発動する!

 20枚を無駄にした。

 一方でパンダはスケルタルドレイクの目前にどーんと立ち、バンザイのポーズをとる。

「にゃーん」

 な、何その鳴き声。初めて声らしき声を発したパンダ。

 その鳴き声は子猫のようだった。

『ランダムパンダ魔法発動。レッツルーレット』

 ま、まだやんのかよ!

『ユーカリ10枚、笹10枚をベットしルーレットスタート』

 ざまあみろ。笹も消費したぜ。はははは。

『笹メテオ、パンダ百連発、パンダトルネード、アルティメット笹パワー、外れ』

 外れを自重しろおおお!

『笹メテオ』

 お、おおお。何か強そうなの来た!

 

 スキル発動のメッセージと同時にパンダが目を閉じ、背伸びして天高く両腕を突き出した。

 パンダの毛が逆立ち、ゆらりとしたオーラがパンダの体から湧き出て来る。

 

 パンダが腕を振り降ろす。

 空が――

 緑に染まった。


「な、何ですか! あれ……」


 空を見上げたコレットが茫然と天を指さす。

 

 ヒュン。

 拳大くらいの緑が落ちる。

 それをきっかけにして、空一杯の緑が次々と拳大の塊となってスケルタルドレイクに降り注いでいくじゃあないか。

 あの塊は……笹か。笹をぎゅうううっと凝縮したものだ。

 

 ――グガアアアアアアア!

 攻撃を受けたスケルタルドレイクが俺の体が吹き飛ぶほどの咆哮をあげ、動き始めた。

 攻撃者たるパンダを踏みつぶそうと右足をあげるものの、襲い来る笹の塊が邪魔をして進めずにいる。

 

 しかし、なんて奴だ。

 動きこそ止められているものの、笹の塊でも殆ど傷がついていない。

 笹の塊の威力が低い? いや、あの一撃一撃は俺の槍より強いはず。

 その証拠に外れて地面に突き刺さった緑の塊は、地面を穿ち地形を変えるほどだ。

 

 っち。こいつはトリアノンの馬鹿力でも骨を削ることさえ厳しいかもしれない。

 

「パンダ。何かまずい。笹メテオの効果が切れる前に退避するぞ!」


 四つん這いに戻ったパンダの背に乗り、お尻をペシペシ叩く。

 一方でスケルタルドレイクは骨の翼を折りたたみ、首を下げ両腕をぐっと胴体側に押し込んでいる。

 口元にチロチロと何かが見え始めた。

 

「急げパンダ。そこの木の上に登ろう」


 パンダは俺を乗せたまま、大木の幹を駆け上がっていく。

 お、落ちるうう。

 パンダから飛び降り、幹に爪を引っかけ事なきを得た。

 俺も早く退避しねえと。

 

 スケルタルドレイクの口元……あれはオルトロスの時と同じだ。

 笹メテオの効果はあと何秒だ?

 切れた瞬間にスケルタルドレイクの攻撃が来るに違いない。

 

 ゾク……。

 来る!

 上へ上へ。スケルタルドレイクより高い位置へ。

 コレットはそのままで問題ない。スケルタルドレイクの真横にある樹上にいるからな。俺たちと反対側の、だ。

 

 ――ゴアアアアアア。

 滝が流れるような轟音と共にスケルタルドレイクの口からブレスが吐き出される。

 や、やべえ。

 パンダのお尻を押し、枝の上に登る。

 すぐその真下をどす黒く濁った汚泥のような濃い緑色のブレスが通り抜けて行った。

 ブレスの当たったところは、ドロリと腐食し溶けている。

 

 つまり、この木もだな。


「お、落ちるううう」

 

 グラグラと木が倒れ出す。

 しかし、ここは樹上生物たるコアラとパンダ。

 素早く隣の枝に乗り移る。

 

 規格外過ぎるぞ!

 あんなのどうやって倒せばいいんだよ。攻撃を凌ぐだけでも一苦労だし。

 俺の持てる手は、対抗する手段は……。

 

 ユーカリパワーはどうだ?

 あまり意味がない。 パンダ並みの力しか発揮できないのだから。

 せいぜいスケルタルドレイクの尾を一度受け止めるくらいが精一杯。


「コレット、聞こえるか!」

「はいい!」

「一か八か、試してみたいスキルがある。それでダメなら、逃走だ!」

「分かりました! 無茶しないでください!」


 命の次に大事なユーカリの消費を厭わず、賭けてみるしかない。

 森がモンスターごとこいつに破壊されれば、更に多くのユーカリが失われるから。

 勿体なさ過ぎるが、やるしかない。

 禁断のあのスキルを、今こそ、解放する。

 

「ユーカリ覚醒」


 アイテムボックスから大量のユーカリが勝手に出て来て砂と化す。

 ざっと見たところ、砂と化したユーカリは100枚を超える。

 

「ぐ、ぐううう」


 脳が焼ききれそうなほどあらゆる情報が流れ込んできた。

 そうか、そうだったのか。

 

 ストンと地面に降り立つ。


「戦士には休息を。天使には戦いを。ユーカリにはユーカリを」


 一人呟く。

 無常だ。

 この世は諸行無常。


「つまらない。本当につまらない。この世にはユーカリとそれ以外しかない」


 おごれる者も久しからず。唯春の世の夢のごとし。


「たけき者も遂にはほろびぬ、常世にあるはユーカリのみ」


 故に、世とはユーカリである。

 

「だが、俺には友がいる。ユーカリと同じくらい大事だ。この世はユーカリだけではなかった。だから、俺は戦う。さあ、やろうか、無常なる者よ」

 

 両手を広げ、真っ直ぐにスケルタルドレイクを見やる。

 心は酷く水平だ。何の揺らぎもない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る