ユーカリ44枚目 とくとみよ「コアラ流格闘術」のしんずいを

 コレットが右のジャックオーランタンに狙いをつけ、矢を放つ。

 矢はカボチャのヘタの部分を掠め、後ろにあった木の幹に突き刺さった。

 よし、これで奴らの気がこちらに集中する。

 

 な、何……。

 中央にいるアンデッドナイトが背中に手をやり、弓を構えたではないか。

 

「コアラさん」


 コレットは矢を引き絞った体勢で顔だけを俺に向ける。

 不安気な顔にはこのまま狙うか、それとも退避するかの間で揺れ動いていることが見て取れた。。


「大丈夫だ。そのまま、左のジャックオーランタンを狙え」

「はい!」


 ――ヒュン。

 アンデッドナイトとコレットの矢がほぼ同時に放たれる。

 こちらからの矢が届くということは、向こうからの矢も届いても不思議じゃあない。

 コレットの矢はかなりの距離まで届くのだが、相手もさすが高レベルを誇るだけはある。完璧な軌道でこちらに矢が飛んで来るじゃあないか

 

 だが!

 見せてやろう。パンダとの修行の成果を。

 

「コアラ流格闘術 二十四のわざの一つ……『ユーカリ拾い』」


 コオオオオオ。

 口から気合の籠った息を吐き、腕をクロスさせて矢を待ち構える。

 ユーカリ拾い――枝から落ちヒラリと舞うユーカリの葉の微細な動きを見極め……って矢が!

 

「もしゃー!」


 カッと目を見開き、矢じりのすぐ後ろを片手で掴み取る。


「す、すごいです!」

「コレット、全部俺が受け止める。右のジャックオーランタンの目を狙ってくれ」

「どちらの目を?」

「左だ。続いて口の右上辺り」

「はい!」


 コレットに迷いはない。俺のことを完全に信頼してくれているんだな。

 任せろ。全ての矢を俺が受け止める!

 もしゃ……。

 

 ユーカリの葉をもしゃり、次弾を待つ。

 来た!

 

 え、えええ。

 なんで二本同時なの?

 驚いてアンデッドナイトの方を見てみたら、背中から腕が生え弓を二丁も構えているじゃないか。

 弓を持っていたことといい……コレットのコーデックスだけじゃあ知りえないネタを沢山お持ちのようで。コーデックスは広く一般的に知られていることしか分からないから、仕方ない。

 アンデッドナイトと戦った者で、かつ、情報を持ち帰り、その中でも断片的な知識しかコーデックスでは知ることができないからな。

 

 だが!

 問題ない。

 

「二十四の業の一つ……『華麗なるユーカリの舞い』」


 両手を頭上に掲げたバンザイのポーズで矢を迎え撃つ。

 華麗なるユーカリの舞は……って矢が!

 一見して無駄のある舞踊のようにゆったりとした流麗な動きで体を右から左に。

 見えた!


「むしゃー!」


 静から動へ一瞬にして転じ、左右の手刀で矢を叩き落す。

 

 アンデッドナイトは俺に攻撃を防がれたことなどに微塵も動じず、次の矢を番える。

 一方でコレットの矢は狙い通り右のジャックオーラランタンの左目にあたる空洞を貫いた。

 

「もういっちょうたのむぞ」

「はい!」


 コレットが弓を構える。

 そろそろアンデッドナイトも次の矢を放つ頃だ。

 

 ――ゴワッシャアアアア。

 その時、好機を狙っていたパンダが背後から襲い掛かり、左のジャックオーランタンの頭上から右腕を振り抜いていた。

 固い物が潰れる鈍い音と共に、ジャックオーランタンは完全にひしゃげ地に落ちる。

 

 近くに姿を現したパンダに対し、アンデッドナイトが体の向きをパンダの方向へ変えた。

 奴はあろうことかせっかく引き絞っていた弓を放り投げ、四本の剣を引き抜く。

 

 その隙を見逃すコレットではなく、右のジャックオーランタンが口にあたる空洞を貫かれ地に落ちた。

 俺?

 俺も既に動いている。


「行くぜ。パンダ!」


 勢いをつけて枝の上から飛び降り、ブルーメタルの槍をアンデッドナイトに向けて放り投げた。

 ――ガキイイン。

 甲高い音がして、アンデッドナイトの肩口を槍が貫く。

 

 っち。外したか。

 アンデッドナイトの弱点はもちろん既にチェックしている。

 奴の弱点は首元にある喉仏のすぐ下だ。

 

 浮足立つアンデッドナイトにパンダが左腕の一撃を見舞う。

 パンダの張り手はアンデッドナイトの胴体を打ち抜き、鎧がひしゃぐ。

 しかし、さすがというか奴はズルズルと地面を擦ったものの、倒れずに耐えきった。

 

 耐えきったとなれば、アンデッドナイトの足に力が入り……パンダに向け剣を振るう。

 ――カン。

 甲高い音と共に、コレットから放たれた矢がアンデッドナイトの剣を弾いた。

 ナイスだ、コレット!

 

 もう一本の腕を潰しておいてよかった。

 肩に刺さった槍があったので、アンデッドナイトは剣を一本しか振るうことができなかったのだ。

 

 パンダは既に反撃の動作に移っている。

 俺も加勢するぞ。

 

 中腰になりゆらりと右手首を回す。

『ピンチ! パンダがスキルを発動します。レッツルーレット』

 何だ。何だ。

『ユーカリの葉10枚をベットしルーレットスタート』

 待てや! 俺は認めん、認めんぞ。

『笹パワー

 黄金の左

 パンダパラダイス

 外れ(再度ルーレットスタートだよ!)』

 外れはやめろおおおお。

『黄金の左』

 よかった……。

 って脳内メッセージに突っ込みを入れていたら、アンデッドナイトが俺に向けて無事な方の腕二本で握りしめた剣を振り下ろしてくるじゃあねえか。

「二十四の業の一つ……『ユーカリ乱舞』」

 回転し、ジャンプ。その勢いを持って右脚で上から来る剣の腹を蹴り、左脚のすぐ真下をもう一本の剣が抜けていく。

 ユーカリ乱舞とは……いや、このパターンはまたピンチになるからやめだ。

 そんなことより、俺からユーカリをむしり取りやがったパンダはどうなった?

 なんと、パンダの左腕が黄金の輝きを放ち始めている。

 光を放つのはいいが、溜め過ぎだ。アンデッドナイトが俺を攻撃したのと反対側の剣をパンダに向け水平に薙ぐ。

 ――カン。

 甲高い音が響き、剣に矢があたり剣がパンダから逸れていく。

 またしてもコレットがいい仕事をしてくれた。

 

『黄金の左が発動』


 軽やかなステップを踏み、低い姿勢になったパンダの光り輝く左が下から上に向け勢いよく振りぬかれる!

 が、一歩踏み込みが足りない。アンデッドナイトの胸の辺りをパンダの黄金が掠めるに留まる。


「な、なに……」

 

 アンデッドナイトが胸から頭の先まで真っ二つに切り裂かれ、後ろにどおおんと倒れ伏したじゃないか。

 一体何が起こったんだ?

 アンデッドナイトの切り口を観察してみたら、鋭い何かでスパッと切り裂かれたように見受けられた。


「カマイタチか」


 パンダの左腕に込められたエネルギーが解放され、爆発的な衝撃波を生んだ。

 その結果が切り裂かれたアンデッドナイトってわけか。

 弱点ごと一撃で沈めるのは良いが、ユーカリを、俺のユーカリを勝手に消費するんじゃねえよ!

 アンデッドナイトならこのままいけば、普通にやっても倒せただろ?

 それを、それをおうお。


 お、おっと。

 ユーカリ……じゃなく、アンデッドナイト溶け闇の霧が噴出してきている。

 左右からも闇の霧がこっちによってきて……。

 

 転がった槍を素早く広い、いつもの風車槍で闇を払う。


「ん、んんん……」


 何だったか、どこか違和感を覚える。

 何か見落としている気がするんだよな……何だったっけ……。

 あああああ。喉に小骨が刺さったみたいで気持ち悪い。


「コアラさーん」


 ぬおおおっと頭を抱えていたら後ろから鈴が鳴るような声が聞こえた。

 お、コレットが降りてきたようだ。

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