第14話
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蓮の視野の真ん中で、アキナが動かなくなった。グラウゼオの光の円は縮小を開始し、すぐに黒色の点になった。
(やめろっ!)心の中で叫ぶ蓮に構わず、グラウゼオは光線を発射。狙いはアキナの後頭部である。容赦なき一撃でアキナの命が刈り取られ──。
刹那、アキナは地面に手を突いた。神速の挙動で起き上がり、即座にグラウゼオの胸へと蹴りを入れる。
(はっ? 速過ぎ──)
思考が追い付かない蓮の視界を、グラウゼオが砲弾のような速度で横切っていった。
直後、どんっと低い音がした。視線は向けられないが、蓮はグラウゼオが木か何かに衝突した音だと予想する。
(今どうやって──。アキナ、どうしたんだ? どう考えても動ける状態じゃないだろ)
混乱を深めつつ、蓮はアキナを注視する。アキナの瞳には、普段見せる強い意志や快活さは感じられず、無機的な冷たさだけがあった。
数秒後、復帰したグラウゼオがアキナと対峙する。やはりアキナの攻撃は受け付けないらしく、身体には新たな傷が付いた様子はなかった。
アキナの目が赤く光った。するとグラウゼオの纏っていた黒霧が、アキナへと吸い寄せられ始めた。
(吸収……してるのか? そんな力、あったのかよ。というか、あいつの霧は見るからに邪悪だ。それを自分に取り込んじまって──)
蓮は胸騒ぎを覚えるが、黒霧はアキナに吸われ続けた。しだいにアキナの全身に、霧とは異なる黒い物体が現れ始めた。
吸収が終わった。蓮は恐れを抱きつつ、アキナを見詰める。
今やアキナの身体は、首から上と両手を除いて「
(何だ、あいつ。アキナに、跪いて……)
グラウゼオは今や、片膝を突いてアキナを見上げていた。眼差しは恍惚としていながらも力強く、神を崇める信者の様相を呈していた。
「ようやく気付いたか。しかしもう遅い。数々の狼藉、その身を以て償うが良い」
アキナから、傲岸不遜で尊大な声が発せられた。声色こそ女の子のそれだが、内に潜む禍々しさはアキナではありえなかった。
するとグラウゼオの表情が恐怖と絶望に歪んだ。左手を振り被り、アキナに手刀による突きを放つ。
しかしアキナは微動だにしない。ガギッ! 攻撃が装甲に弾かれて、グラウゼオに隙が生まれる。
アキナはふうっと身体をわずかに浮かせた。その場で急速に縦回転すると、右の踵をグラウゼオの頭頂部に打ち付けた。
ボグッ! 嫌な音の直後にグラウゼオは頭から地面に叩きつけられた。すぐに瞳からは光が失われる。
するとグラウゼオの身体はさらさらと大気に溶けていき、やがて跡形もなく消え去った。
(あいつは死んだ。危機は脱した。けどアキナ。いったい君に何が起きて──)
憂慮する蓮だったが、すぐに意識は闇に溶けていった。
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