第2話
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葵依を退けた直後、蓮はアキナから、
「私たち
凜とした雰囲気を纏うアキナは、蓮の隣を走っていた。前方では、クウガが無駄のない走法で先を行っている。
四条大橋が見えてきた。橋までの道には、紺色の学童服と黒の上に白を配置した学生帽を身につけた、小学校高学年と思しき男子が一人いるのみだった。
突如、男子小学生がうずくまった。両手で痛そうに腹を抱えて、顔を下に向けている。
到達したクウガは急停止すると、「どうしました?」と、目線を合わせて実直な声音で尋ねた。
だが、シュッ! クウガの頬から擦れるような音がした。意表を突かれた蓮は、男子小学生を注視する。
未だ顔を伏せる男子小学生は、一見するとどこにでもいそうな容貌である。だが目を引くのは、その右手の手首から先。そこに人間の肌は存在せず、銀のごとく煌めく物体が槍の穂先のような形状をしていた。
「な、なんなんだよ、こいつは」アキナにもこの事態は想定外な様子だった。形の良い眉を、怪訝そうに顰めている。
だがクウガの立ち直りは早い。傷を顧みずに両手を顎の下に持ってきたかと思うと、右手で直線軌道の拳を放った。
小学生は微動だにできずに拳を貰った。そのままごろごろと、路上を十メートル以上も転がる。
十回ほど跳ねてからの地面との接触寸前だった。小学生の身体が唐突に銀へと変色した。そのまま地にぶつかるが、ぬるり。液体のごとく柔軟に変形。地面すれすれに円形をなして広がったかと思うと、すぐにぬうっと中心から、胸から上の身体が出てきた。顔はのっぺらぼうであり、ぐにぐにと奇妙に蠢いている。
(は? 何だこいつ。いったい何が起きてんだよ?)混乱しきった蓮は、答えを求めてクウガに目を向けた。しかしクウガも理解不能なようで、信じられないとでも言いたげな面持ちである。
すると銀の生命体は、どぷんと地の下に消えた。
一秒ほどして、路上のあちこちに銀色の円形が同時出現。すぐに続々と上半身が現れる。その数は三〇ほど。先ほどの生命体が増殖した形だった。
「蓮くん、ちょいと失礼!」
アキナが早口で喚くと、蓮の身体がわずかに浮いた。振り向くとアキナが、片手で蓮を持ち上げていた。
すぐにアキナは蓮を軽く投げた。クウガの手前、蓮はどうにか着地してさっと顔を上げる。
クウガとアキナは、蓮を挟んで背中合わせになっていた。蓮を守りつつ、互いの隙をなくす陣形だ。
ブゥン! クウガの真正面に、平良との面会時に見せた漆黒の真球が出現した。するすると直径一メートルまで大きさを増したかと思うと、真球の中央へと銀色生命体たちが吸引されていく。
クウガは先ほど同様の、両の拳を握り込んだ半身の構えを取った。銀色生命体たちが真球に至った瞬間、左拳を下から上に振り切った。
(あの構えは拳闘〈ボクシング〉! 黒船の時に伝来した格闘技だったか?)
蓮が高速思考をしていると、方々に跳んでいった銀色生命体たちが次々と落下しひしゃげた。しかしどれもが、即座に元の姿に戻る。皆、君の悪い挙動でうねうねしており、一体足りとも、負傷等を受けた様子はない。
「ダメだよクウガ! こいつら身体が柔らかいから、物理攻撃は無効化しちゃうんだ! よし! ここは私の出番だね!」
威勢良く叫ぶと、アキナは右手・右足を前にした姿勢になった。集中しきった顔付きで、ふうぅっと大きく息を吐く。
「やっ!」短く叫んで、アキナは右足を軸に跳んだ。左を蹴り上げたかと思うと、それ以上の高さで右足を振り抜いた。ノピチャギ(跳び前蹴り)である。
刹那、アキナの右脚に、黒い折れ線のような形状の何かが現れ、天へと飛翔。頭上5メートルほどの位置で折り返すと、何十にも分裂した。周囲一面に降り注ぎ、銀色生命体を打ち付ける。
「私のテコンドーは裁きの黒い雷を生む! どーだ! 見かけはどっからどー見ても金属だ! ビリビリ痺れて大ダメージ間違いなしでしょ!」
力強く笑むアキナは、確信に満ちた風に叫んだ。
アキナの予想通り、銀色生命体たちは痺れたかのように身体を震わせた。しかし即刻、体勢を立て直して再びぬるりとアキナたちに詰め寄る。
「そんな、大して効いてない。いったいどうすりゃ……」
アキナが愕然としていると、「アキナ!」。クウガが大音量で名を呼んだ。
「今みたいに雷を分散させたら威力はなくなる。それにお前の雷は、技の出始めのほうが強力だろ。そこで俺の能力だ。後はわかるな!」
クウガの簡潔な台詞に「あっ!」と、アキナははっとしたような声を出した。
するとアキナのちょうど真上に、クウガの真球が発生。間髪を入れず、銀色生命体たちは引き込まれる。
真球の中心に敵は集結した。即座にアキナは、もう一度大きく跳躍。銀色生命体の塊にノピチャギをぶち込む。
蹴りが当たるや否や、ズバチッ、ドゴォォォォォォン! 耳をつんざくような音と同時、黒雷の大玉が銀色生命体たちを包んで爆散。握りこぶし大に分かれて、またしても落下した。衝撃が大きすぎたためか、今度はぴくりともしなかった。
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