第44話 差別と魔女
まさか南方司令官とご兄妹とは、ウィンクルさんも貴族さんなんだな。
「ルシャちゃん!」
また聞き慣れた優しい声がした。
「ジョイさん、こんにちは!」
良いお天気の陽射しがジョイさんの銀髪をキラキラさせている。
「見物に来たの?」
「今日は救護班のお仕事できました。」
「そうなんだ。ところでイチ大佐を見かけなかった?」
「救護所で寝てますよ。」
「もー、全く仕方ないなぁ。とりあえず昼食届けるか。
ジング爺さんの特製ランチ!ルシャちゃんも一緒に食べよう!」
「ありがとうございます!」
ジングさんのお弁当なら美味しいに決まってるわ。
救護所のテントに戻ると、イチは起きてワインを飲んでいた。
「イチ大佐ぁ、どこに行ったかと心配しました。
セレモニーの時くらい、ちゃんと整列してくださいよ。」
「めんどい。俺は貧血で倒れたから、救護所にいるんだ。」
「もっとマシな理由ないの?」
国王陛下もご臨席なのに、信じられない。
騎士として忠誠心の欠片もないな、この人。
ジングさんの特性お弁当は盛りつけも美しく、クロワッサンサンドのハムまで手作りだとジョイさんが教えてくれた。
イチはクロワッサンは食べて中身を残す。お子様か!
「ホントに好き嫌い多いですねー。」
「うるさい。」
「ウィンクルさんはどこでしょう?」とジョイさんが辺りを見回す。
「エニセイア南方司令官のテントでランチするって、院長と一緒に行かれましたよ。」
「そうですか……父上と会ったんですね。」
「やっぱり、ジョイさんのお父様でしたか。
銀髪が似てるなぁと思いました。
年の離れたご兄妹ですね。とても仲が良さそうでした。」
「父上は妹であるウィンクルさんには甘いんですよ。僕には厳しいのにな。」
ジョイさんが少し寂しそうな顔をしたような気がした。
「社長と愛人にしか見えないが、あの兄妹は双子だ。」とイチが言う。
「え!双子!?」
「同い年だ。58だ。」
「えっ!!58才!?
ウィンクルさんは、どう見ても20代ですよ!
ジョイさんよりも若く見えるくらいなのに。」
ジョイさんの叔母様にしては、ウィンクルさんは若いなと思ってた。
「叔母は魔女なんです。」
「魔女?」
「老化が遅い体質の……女性のことです。」
「そんな人がいるんですか?ずっと若くてキレイなんて、うらやましいかも。」
「そーでもないさ。自分より先にローランドもジョイも確実に死ぬ、寿命でな。
孤独だ。結婚も難しい。
自分の旦那や子供より若いままで、家族が年老いて死んでいくのを見ることになるからな。」
私はひどいことを言ったのかもしれない。
「どれくらい長生きなんですか?」
「150年は余裕で生きる。」
そんなに!?
「ウィンクルさんは家名がエニセイアさんじゃなくてポッドさんですよね?」
「叔母は魔法騎士になる時に家を出ました。乳母のポッド夫人の養子になって。」
「女性は家を出ないと騎士になれないのですか?」
「そういうわけじゃないが、貴族は魔女を嫌う。魔女だと分かったら隠すことも多い。」
「エニセイア家は魔女を外に出したくなかったんです。祖父母は保守的な方たちでしたから。エニセイアを名乗らないのが、外に出る条件だったみたいです。
昔は家の中で人生を終える魔女も多かったんですよ。」
「そんな!」
「大昔は魔女への差別がもっとひどかった。だが重宝されてもいた。体が丈夫だし、魔力も強い。語り部として生きて、歴史を語り継ぐ仕事もあった。だがその役割は今は薄れた。
いつまでも年をとらないように見えるから、知らない奴は怖がる。気味が悪いってな。一目で分かるように帽子をかぶらされる。」
「あの黒いとんがり帽子?」
「あれは外出時の義務だ。かぶらないと死刑だ。」
「そこまで!?どうして?」
「魔女が魔女を産むこともある。こいつと結婚するなって目印だ。」
酷い。
「そんな法律いらないんじゃないかな?長く生きるだけで悪いことしていないのに。どうして変えないの?」
「何度も廃止法案は出ています。でも頭の固い保守派が阻止してきました。」
「ウィンクルさん、こんな大きな試合に出場して大丈夫なの?余計に差別されない?」
「隠すことが差別の解消にはならない。ウィンクルもたまにはブチ切れる場所が必要だ。
差別する奴らを合法的にぶちのめして、スッキリさせないとな。」
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