(24)

「キャ――――!!」


 クロードの張った結界フィールド内にこだまする、半狂乱になったセフィーゼの悲鳴。

 恐れを知らず、さわるものすべてを風魔法で切り裂こうとしていた彼女の心に、今、何が起こったというのだろうか?


「ユウト君、早くこちらへ。私のそばに来てください」

 セフィーゼの突然の変化にあ然としていると、クロードが呼びかけてきた。

「パニックに陥った彼女に巻き込まれると厄介ですから」


「は、はい」

 訳が分からないまま、僕はクロードに近寄った。

「でもこれは……? セフィーゼはさっきとまるで別人のようじゃないですか」


「ユウト、いいから黙って見ていろ」

 と、アリスが戸惑う僕に言う。

「しばらくはあの少女に触れてはならぬ」


「はあ……」

 

 セフィーゼはもはや僕たちのことなど眼中になかった。

 あさっての方向を向いて身を構え、据わった目つきで空をにらみ付けている。

 だが一方で、彼女の小さな体はブルブル震え、何かに強くおびえている感じもした。


「いやっ、こっちに来ないでっ――!」


 突如セフィーゼが叫び、ぶんっと大きく手を振って何かを追い払おうとする。

 しかし、この結界内に存在しているのはセフィーゼと僕たちだけ。

 他に人の影は一切ない。

 それでもセフィーゼは必死にもがき

、叫ぶ。


「私に近づいたらただじゃ済まないんだからっ――!」


 それはあたかも、得体の知れない透明な化け物と、たった一人で戦う臆病な少女の図のように見えた。


 この奇妙で異常な光景は、間違いなく、クロードが魔法で作り出した幻影結界ミラージュフィールドの影響によって現れたものだ。

 そう考えると、僕は何とも不可解かつ薄気味悪い気分になって、いったいぜんたい何がどうなっているのだろうと、結界内をぐるりと見回した。

 

 あれは――ガラス?

 いや、水晶か?


 セフィーゼの様子に注意を奪われ今まで気づかなかったが、この結界と外界を隔てているものは、キラキラと輝く紫水晶のような薄くすき通った結晶体の壁だ。

 結界内が藤色に染まっているのは、空から降り注ぐ陽光が、その壁を透過しているせいだったのだ。


 さらによく見てみると、その水晶の結晶面の壁には、セフィーゼや僕たちの姿がまるで遊園地のミラーハウスのように何重にも乱反射していた。

 なるほど、これがミラージュ――つまり幻影で蜃気楼なのか?


 あっ!

 もしかして……。

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