(6)

 ほうほうのていで飛んで逃げていくワイバーン・ドラゴ。

 僕はその姿を見ながら、トマスの丸太のような腕をぎゅっと握った。


「ありがとうトマスさん! こんなに何度も何度も助けてもらって、命の恩人としか言いようにないよ」


「へへへ……」


 思わずうるうるしてしまった僕を見て、トマスは照れ笑いをする。

 この殺伐とした状況の中で何とも癒される笑顔だ。

 口数は少ないが、たぶんトマスは、異世界で出会った人の中で一番気がやさしい。 


「いやあ、危ねえ危ねえ。助かったぜ、トマス」

 と、エリックも額の汗をぬぐいながら言った。

「俺としたことがワイバーンの強さを見誤っちまったようだ。ユウト、すまなかったな。矢とお前の魔法を組み合わせて奴の目を狙えばてっきり倒せると思ったんだが……」


「ううん、エリックが謝る必要ないよ」

 僕は首を横に振った。

「だって今の戦い方の方向性は間違ってない――というかそれで正解だと思うんだ」


「なに? それはどういう意味だ?」


「意味もなにも、僕の『エイム』の魔法を使ってワイバーンに何かぶつけて撃ち落とすってことだよ。問題は弓矢よりずっと威力のある武器が必要っていう点だけ――」


 と、そこまで言いかけた時、ワイバーンに乗ったままのセルジュの叫びが聞こえた。

 羽を大きくはばたかせ、どんどん遠くの方へ逃げていくワイバーン・ドラゴに向かって吠えているのだ。


「おいドラゴ! お前どこ行っちゃうんだよ? バカッ、戻ってもう一度こいつらを殺れよ!」


 だが、ワイバーン・ドラゴはセルジュの命令に従うことなく、そのままあさっての方向へ飛んでいってしまった。

 トマスの棍棒にスマッシュヒットされたのが、よほど堪えたらしい。


「チクショウ! ほんとに使えねー獣だな。だいたいさ、お前らワイバーンときたら地頭が悪すぎるんだよ。もしかしたら犬か猫の方がよっぽど賢いかもしれないぜ」


 癇癪かんしゃくを起こし、腹立ちまぎれに自分の騎乗しているワイバーンに当たり散らすセルジュ。

 いいように乗り回され、こんな風に八つ当たりまでされてしまっては、ワイバーンもたまらない。


「しっかし残りの連中もおせーな! なにノロノロしてんだよ」

 セルジュは今度は、城壁を破壊するための岩を取り行った残り十体のワイバーンに対し悪態をつき始めた。

「このままだと白魔法使いどもに逃げられちゃうじゃねーか」


 セルジュのやつ、僕のことが本当に憎いのなら自分で攻撃してくればいいのに。

 それをしないのはおそらく、反撃されダメージを受けることを恐れているからだろう。

 まったく用心深いというか、卑怯というか……。


 とはいえ、ワイバーンがいなくなり、セルジュが往生している今こそ、こちらの体制を立て直す絶好の好機チャンスなのだ。

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