(26)

「はい、それは是非――」

 僕はうなずき、それからレーモンのことが気になって、アリスに向かって尋ねた。

「あの、そういえばレーモン様のご様子は?」


「無事だから安心しろ、部屋で寝ているが容態は安定している」

 と、アリスが答えた。

「まあ年齢が年齢だ。すぐ復帰するのはさすがに無理だろうが、お前たちのおかげで命拾いしたな」


「ああ、それはよかったです。……あの、アリス様」


「ん、なんだ、ユウト?」


「今回の件――レーモン様が無理やりアリス様を拘束して戦場から連れ出したこと、あまりレーモン様をお責めならないようお願いします」


「……そのことか」

 アリスは微妙な顔をして言った。


「レーモン様に悪意はない、すべてはアリス様の安全を考えてやったことなのですから。当然アリス様をそんなことお分かりでしょうが……」


「もちろんだ。が、レーモンが私の命に違背したことは紛れもない事実だからな。処遇については少し考えたいと思う。――とりあえず、そこに突っ立っているマティアスはさっきコッテリ絞ってやったぞ」


 普段と変わらず無表情のマティアスだが、どこかゲンナリして見えるのはそのせいか。

 確かに、こんなに美しい王女様に責められたら、気分が凹んでしまうのも無理はない。


「あの……」

 と、その時、妹ティルファが兄クロードの袖を軽くひっぱった。

「お兄様、私、ちょっと……」


「ああ、ティルファ、分かっている」

 クロードがティルファの肩をやさしく抱いてから、アリスに言った。

「アリス様、お許しいただければ、私たちはこれでいったん自室に戻りたいと思います。なにしろ妹はまだ気分がすぐれないようなので」


「そうか、そうだな」

 アリスがうなずく。

「クロード、ティルファのことを頼むぞ。存分にいたわってやってくれ。――ティルファ、戦争が終わり、お前も完全に回復したら、また一緒に馬の遠乗りにでも出向こうではないか」


「はい、よろこんでお供いたします」


 美しい女騎士ティルファはそう言って、明るく微笑んだ。

 その姿はやはり、精神が崩壊し、泣き叫ぶだけだった彼女とはまったく別人のように見える。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 クロード・ティルファの兄妹はそして、再び恋人のように肩を寄せ腰に腕を回して、城主の間を出て行った。

 その後ろ姿を見て、僕はどうしても首をかしげてしまう。


 うーん……?

 この二人、自分たち以外何も見えてないような感じがする。


 結局クロードは強度のシスコン、ティルファは強度のブラコン―― 

 そういうことなんだろうか?

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