(21)

「じゃあ扉を開けるから、ユウちゃん先に入って」


 男爵がそう言いながら、扉に刻まれた鷹の彫刻に手を振れた。

 すると途端に、扉は魔法でもかけられたかのように、音もなく左右に開いた。


 城主の間はかなりの広さがあるものの、特にこれといった調度や装飾はなく意外とシンプルな造りをしていた。

 が、それでも、高さ五メートルはある天井と壁際に並ぶ大きな窓のおかげで、これまでの部屋にはない解放感があった。 

 

「アリス様……」


 僕たちが広間に入った時、アリスは中央奥に置かれた城主の座に腰かけていた。

 普段なら、そこに座っているのはこの城の城主であるグリモ男爵のはず。

 しかし今は、国王に次ぐ身分のアリスのための場所になっているのだ。


 広間には他に三人――マティアスと、さっき男爵が話していたクロード、ティルファの兄妹が控えている。

 けれどアリスは彼らと何か会話するわけでもなく、椅子の肘掛けに頬づえを突き、ただつまらなそうにしているだけだった。

 

 ところが、アリスは僕の姿を認めると態度を一変させた。

 

「ユウト!」


 アリスは一言叫ぶと、城主の座から飛んで立ち上がった。

 そして薄桃色の美しいゆるふわロングドレスをヒラヒラさせながら、ほとんど走るような勢いでこちらに向かってきた。

 

「ユウト! ユウト! ユウト!」


 アリスは歩きながら、その碧眼へきがんで真っ直ぐに僕の顔を見つめ、名前を連呼する。


「は、はい!」


 一応返事はしたが、迫ってくるアリスに対し、僕はタジタジして思わず二、三歩後ずさりをしてしまう。

 ……やっぱりアリスは、僕が無断でお城を抜け出したことにキレているのだろうか?

 そう思い、怒られ、叱られ、ぶん殴られる覚悟までしていると――


 アリスはいきなり僕に飛びつき、体をむぎゅうっと抱きしめてきたのだった。


「ア、アリス様?」

 

「ユウト、よくやってくれた! 話はグリモとマティアスからすべて聞いたぞ!!」


「え!?」


「私が寝込んでいる間に、まさか自らの危険も顧みず仲間を救いに戦場に戻るとはまったく思いもしなかったぞ! あまつさえ一人の犠牲も出さず、生き残った者全員をこの城に連れて帰ってきてしまうとは――ユウト、お前は並大抵の勇者ではないと言っても過言なしだ!」


 アリスは感極まったように、背中に回す二本の腕の力をますます強めた。

 そのせいで僕は、アリスのドレスの下にある二つの胸の柔らかなふくらみを、否が応でも意識してしまう。

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