(19)

「あらまあ、ミュゼットとの仲がいつの間にかそこまでハッテンしているとはねぇ」

 男爵がニヤついて僕を見る。

「ユウちゃんも意外と隅に置けないというか、結構やることやってるじゃない」


「いや、別にそういわけでは……」


 ミュゼットのつぶやきの真意はともかく、本命であるリナには一向に振り向いてもらえないというのに、隅に置けないも何もない……。 


「またあ恥ずかしがっちゃって」

 と、男爵が僕を冷やかす。

「それにアリス様だって、ユウちゃんが目を覚ましたら早く会いたい会いたい、ってそればっかりよ」


「えっ!」

 それを聞いてミュゼットが飛び上がった。

「もしかしてアリス王女様も、ユウ兄ちゃんのこと……」


「違う――違います!」

 僕はぶるぶる首を振った。

「アリス様はただ、行方不明のリナ様が今どうしているかそれを僕に聞きたいだけですよ」


 誰が好きだとか、誰に惚れられているとか――

 リナがいない緊急事態の今、そういう話は保留にしときたかった。


「そんなことはないと思うけどね、アタシは。――まあ確かに、目下大事なのは」

 と、男爵がド迫力な顔面を僕にグイっと近づける。


「な、なんでしょうか?」


「いいことユウちゃん。リナがさらわれってしまったってことは絶対にアリス様に言わないで」


「え!? でもリナ様だけこのデュロワ城に戻ってないのだから、アリス様もおかしいと思ったのでは?」


「それは大丈夫。マティアスを始め、アリス様に謁見する可能性のあの人たちはみんな同じように口裏を合わせてるから。――リナは救援を求めるため恋人と、つまり王の騎士団キングスナイツのリューゴ君と一緒に王都に向かったってね」


「ああ、そうだったんですか……」


「なにしろリナってアリス様の親友なんでしょう? その親友がかどわかされたとあっては、アリス様が暴走して何をしでかすか分かったものじゃないじゃない?」


「はい」

 僕はうなずいた。


「今はただでさえ人が溢れてお城が大変な状態だから、場が余計に混乱することだけは避けたいのよ」


 自分と同じ心配を、みんなもしていたわけだ。

 アリスを騙す形になるのは心苦しいが、今はそれも致し方ないだろう。


「男爵様、承知しました。いずれにせよ、アリス様にその事がばれないうちにリナ様を一刻も早く取り戻しましょう」

 と、僕は男爵に言った。


「それはもちろん賛成なんだけどねぇ……ユウちゃん、あなたもロゼットから聞いたと思うけど、あのリナが今どこへいるのか、まったく手がかりがないのよ」

  

「その点はご懸念に及びません。リナ様の居場所は魔法によってすでに目星がついています」


「あら、そうなの!」

 と、男爵は手を合わせて叫んだ。

「さすがねぇ。アタシが見込んだオトコだけのことはあるわ」


「いえ、まだ場所が分かっただけですから。――それで、手遅れにならないうちに、リナ様救出のため早速出立しようと思うのですが」


「あ、ならボクも絶対に行くよ!」

 と、ミュゼットが真剣な眼差しで言った。

「だってあのシャノンとかいう女剣士を取り逃がしたボクにも責任があるもの」


 ミュゼットが一緒に行ってくれれば、確かに非常に頼もしい。

 だが同時に、彼(女)が大いに危険にさらされることになってしまうことも事実だ。

 なにしろ敵は、ハイオークよりさらに手ごわくたちの悪いあのヒルダなのだから……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る