(17)
「……どうかな? この格好、おかしくない?」
ミュゼットが顔を赤くしながら、上目づかいに訊いてくる。
最初に会った時の、やさぐれた態度が嘘のような純情さだ。
「い、いや、とってもよく似合ってる……よ」
僕はドキドキしながら言った。
「ほんと? ありがとう――!!」
と、ミュゼットは心底嬉しそうに笑った。
「メイド服なんて着るの久し振りだから、ヘンに見えないか心配だったの」
変どころではない。
黒のメイド服に裾が短めのメイドスカート、純白のメイドエプロン、そしてメイドカチューシャを身に付けたミュゼットは、掛け値なしの極上の可愛さだった。
あえて陳腐な表現を使えば、
リナやセリカのことを一瞬忘れてしまうぐらいのインパクトだ。
――いや、待て待て!
と、胸の鼓動を必死に抑える。
ミュゼットは男だ……。
男なんだぞ!
「あれれ、ユウ兄ちゃん――」
ミュゼットはそんな僕の葛藤も知らず、目を丸くして言った。
「じゃなくて、ご主人様、まだ着替えてないんだ? 男爵様が待っているよ」
「ご、ごめん。ちょっとボーっとしていて」
「そうなんだ。じゃあボクが手伝ってあげるから、中に入って入って!」
ミュゼットはそう言って、遠慮する僕を強引に部屋の中へ押し込めた。
「えーと、服はそっちのチェストにあるからっと……」
ミュゼットは着替え一式を取って来て、べッドの上に置いた。
それから僕の寝巻を引っ掴んで言った。
「さーご主人様、ボクが着替えさせてあげるね♡」
と、その拍子に、二人の体と体が自然と触れ合ってしまう。
ミュゼットの何とも柔らかな感触と温もり――
それを感じ、全身に甘いざわめきが走る。
や、やばい!
このままだと、本当に下半身が反応してしまいそうだ。
「ミュゼット、いいから! 自分でできるって」
と、僕は慌てて着替えを手に取って、部屋の隅の方へ退避した。
「えーボクがやってあげるのにぃ」
「いや、何というか……ほら、こういうこと慣れてないから。恥ずかしいんだ。――あ、そうだ! なら悪いけどベッドを直しておいてくれるかな? 起きた時のままだから」
「はーい。かしこまりました」
ミュゼットは少々不満げな顔をしながらも、テキパキとベッドメイクを始めた。
この慣れた手つき――
おそらく騎士になる前、ちゃんとメイドの修業を積んでいたのだろう。
「あのさ、ミュゼット」
と、僕は寝巻を脱ぎながら尋ねた。
「ミュゼットはなんでお姉さんたちと違って、いやお兄さんか――なんで一人だけ騎士になったの?」
「あ、それはね」
シーツの皺を伸ばしながら、ミュゼットが答える。
「男爵様に拾われてから、ボクも姉さまたちとこのお城でメイド修業をしてたんだけど、たまたまお城にやってきた偉い竜騎士の人に魔法の才能を見込まれ、
「なるほど、それでメイドの仕事もで出来るんだ」
「ヘへ……まあね。でも、ボクとしてはやっぱり騎士として、弱い人や困っている人を少しでも多く助けてあげたいんだ。男爵様は危険だからって反対してるけどね」
幼いころに両親を亡くしたせいか、ミュゼットはやけに健気でしっかりとしている。
それに比べ僕は……。
現実世界を逃げるように去って、この異世界でいったい何をやろうとしているのだろう?
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