(16)

「うわっ! 汚い! それに臭いよ!!」


 ハイオークの唾液で上半身がベトベトになったミュゼットは、さっきまであんなに強気だったのに、今や半泣き状態だ。


 でも――


 その悲惨だけど、どこかエロい光景を見て、僕はある違和感を持った。


 ――何かがおかしい、何かが。


 男爵が言うように、ハイオークは本当にミュゼットを素っ裸にし、いかがわしい行為をしようとしているのか?  


 いいや、おそらく違う!

 もしかしてハイオークは――


 と、思ったその時。 

 僕の推理を裏付けるかのように、ハイオークのお腹が「グウウッ――」と大きな音を立てた。


「男爵様、リナ様!」

 僕は確信して二人に言った。

「ハイオークはミュゼットを捕まえて、その――エッチなことをしようとしているのではありません」


「え、どういうことよ!」


「ズバリ言うと、ハイオークはミュゼットを食べようとしているのです」


「ええええ――!!!」

 男爵とリナが驚いて同時に叫ぶ。


「そう考えると、ミュゼットの一見無謀に思えた戦い方もすべて合点がいきます」


「?????」


 男爵もリナも、キツネにつままれたような顔をしている。

 しかしその時、僕の頭の中では一切の疑問は氷解していた。


 なぜミュゼットはハイオークの戦斧を使用不能にしたのか――?

 なぜミュゼットは無駄とも思える魔法攻撃を続けたか――?

 なぜミュゼットは躓き転んで倒れたのか――?

 なぜミュゼットはハイオークにつかまったのか――?

 なぜミュゼットはかたくなに『炎のファイアウォール』の結界を解くことを拒んだのか――?


 それらの行動にはすべて、ハイオークを一人で倒すためにミュゼットが立てた、勝利の方程式だったのだ。



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