(9)

 悔しい。

 悔しい。


 悔しすぎる……が、これで一つはっきりしたことがある。


 七瀬理奈 ≒ 王女の影武者リナ

 日向ひなたるい子 ≒ 魔女ヒルダ

 佐々木龍吾 ≒ 竜騎士リューゴ


 異世界で僕がこの三人と出会ったのは決して偶然なんかじゃない。

 絶対に、絶対にあの人の仕業だ。


 あの人――

 それはもちろん清家せいけセリカ!


 セリカは僕を転移させたように、理奈、日向先生、龍吾の三人をわざわざ同じ異世界に送り込んだのだ。


 具体的な証拠があるわけではない。

 また理由も分からない。

 だがセリカが、チェスや将棋の盤上で踊る駒の動きを見るように、この状況を面白がっているであろうことは確信を持って言える。


 つまり余興――?


 セリカは今もきっと、現実世界のどこかで、僕らのことを見下ろして楽しんでいるに違いない。

 この異世界アリスティアはまるで、彼女が遊ぶRPGゲームの舞台のようなのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇  



 そんな怒りと絶望が入り混じった複雑な感情を抱きながら、語り合うリナとリューゴを見ていると――

 突然、誰かが僕の耳に「フッ」と生暖かい息を吹きかけてきた。


「のわっ!!」


 背筋がゾクッとしてピョンと飛び上がってしまう。

 驚いて息を吹きかけたぬしの方を見る。と、それは案の定、グリモ男爵だった。


「ユーウちゃん♡」

 男爵はそう囁き、怪しく笑った。

「やあねえ、男の嫉妬は見苦しいわよ」


「へ、変なことするの止めてくださいよ。それに嫉妬って! な、何で僕が嫉妬なんか!」


「ちょっとぉ、隠してもムダムダよぉ。なんたってアタシは恋愛のプロ中のプロ。スーパーウルトラプロなのよ! ユウちゃん、あなたがあの娘リナのことが好きだなんての、とっくのとうにお見通しなの!」


「うぐぐ……」


 ダメだ。

 この人に嘘はつけない。


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