(17)

「それでは行きます――ハイッ!」


 リナは掛け声をかけて、栗毛の馬の腹に軽く蹴りを入れた。

 すると速い!

 馬は風を切りながら灰色の荒野を通り抜け、瞬く間に昨日通った険しい山間やまあいの道に入った。

 

「あの、ところで――」

 渓谷に流れる川のせせらぎを聞きながら、僕はリナに尋ねた。

「リナ様はどうして僕が城を抜け出し、戦場に戻ると思ったんですか?」


「そんなこと考えなくてもわかりますよ」

 リナはあっさり答えた。

「戦いが始まってからのユウトさんを見ていれば、容易です」


「え、それってどういう意味ですか?」


「ユウトさんはハイオークと戦った時も、アリス様と組んでデュエルをした時も、常に仲間のことを考えて戦っていたように見えました。それに昨日戦場から離脱する際、ユウトさんは激しく抵抗しましたよね?」


「特に意識してやったわけではないんですが……」


「ええ。だからこそ、そんな仲間思いのユウトさんがこのままお城に留まっているはずないと予想したのです。たとえ一人でもきっとみんなを助けに行くだろうと――」


 一応、リナは僕の行動を好意的に感じてくれたらしい。

 別に人に良く思われくてしたことではないけれど、ちょっと嬉しかった。

 

 しかし……。

 リナでさえ簡単に予想できたことが、百戦錬磨で経験豊富なあの竜騎士できないわけないのだ。


「あ!」


 渓谷を抜けて、ヒルダと戦った恐怖の森に差し掛かろうかというところで、リナが叫んだ。


「ユウトさん、あそこに見えるのは――」


 げげっ!

 マティアス!


 僕たちの行く手を遮っているのは、馬に乗り武装したマティアスだった。

 しかもなぜかその横には、昨日の衣装に負けず劣らずド派手な銀の鎧を身に付けたグリモ男爵もいる。


「あらま!」

 男爵が丸く大きな目を、さらに大きくして言った。

「マティアスちゃんの言う通り、本当に来たわね!」


「分かったか、グリモ?」

 と、マティアスが答える。

「ユウトというのはそういう男なのだ。わずかな間でも一緒に戦えばわかる」


「ふーん、イマドキ珍しい子なのね」


 やられた。

 二人は先回りをして僕を、ついでにリナもデュロワ城へ連れ戻しに来たのだ。 

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