(7)

「聞いて」

 シャノンがヒルダに気付かれないよう、ごく小さな声で囁いた。

「私はキミをどうしても殺したくないの。ヒルダを騙すためにうまくみね打ちにするから死んだふりをして」


 要するにシャノンは、僕だけを助けてくれるというのだ。

 が、その選択は絶対にありえない。


「無理です」

 僕は即座に断った。

「仲間を見捨てることはできません」


「だけど……」


 シャノンはそこまで言って剣を引き、僕からパッと離れた。

 それ以上会話を続ければヒルダに怪しまれるからだ。


 が、話はまだ終わってない。

 僕たちは再び近づき、果敢に打ち合うふりをした。


「それより誰も死なない唯一の方法が――」

 と、今度はこちらから囁く。

 

「え!?」


「お願いがあります。二人でチャンバラをしながら、自然な感じでヒルダに近づきたいのです。どうか協力して下さい」


 シャノンは一瞬迷ったのち「わかった」という風にかすかにうなずいた。

 僕のことを信じ、すべてを任せてくれるらしい。


「沈む沈むぞ、陽が沈む!」


 ヒルダが狂乱したように叫ぶ。

 確かにもう夕陽は半分、山の稜線に隠れかけていた。

 あと二、三分もすれば完全に日没だ。


 それでも僕とシャノンは戦い続けた。

 まるでボールルームダンスダンスのプロが初心者を巧みにリードするように、さりげなくヒルダとの間を詰めながら―


「最後まで本気は出さないのか、シャノン」

 しびれを切らしたヒルダが叫ぶ。

「これが最後の忠告だ。ユウトを殺せ!」


 あと少し、あと少しであの魔法が確実に届く範囲まで近づける。

 なのにヒルダはまったく警戒していない。

 剣の攻撃範囲にさえ入らなければ、自分は安全だと思い込んでいるのだ。


 そして――日没。

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