(10)

 周囲にはまだ無数のアンデッドがうごめいている。が、ヴィクトル将軍のように脅威になる個体はもう存在しない。


 ここは臨機応変に対処することが大事――


 そう判断した僕は、残ったアンデッドはできる限り竜騎士に任せひたすら前に進むことにした。

 その後も行く手を阻むアンデッドが数体いたが、すべて『リカバー』で浄化し、まもなく魔女の元にたどり着くことができた。


「王女を放せ!」


 僕は魔女に向かって叫んだ。

 怒りのあまり、声が震えているのが自分でもわかる。


 だが魔女は僕のことなど無視して――いやむしろ見せつけるかのようにリナの胸をもてあそび続けていた。

 戦いの最中にこんなセクハラ行為を堂々としてしまうなんて、この魔女、頭がいかれているとしか思えない。


 一方のリナは抵抗するそぶりも見せず、顔を真っ赤に上気させ、目は高熱に浮かされたようトロンとさせている。

 頭がボーっとして、半ば意識を失いかけている様にも見えた。


 そんなリナを目の前にして、僕は怒りの感情はさらに燃え上がる。


 許せない!

 絶対に許せない!!

 いくらアリスの身代わりだからって、リナがこんなひどい目に合う筋合いはない。


「やめろ! その汚い手をどけろ!」 


 僕は絶叫した。

 が、魔女はそんなことなどお構いなしに、リナの耳元に甘い口調で囁やいた。


「かわいいかわいい王女様。まだまだ未熟なつぼみだけれど、むしろそれがいい。……じゃあ、こちらの方はどうだろう?」


 魔女がいよいよ、といった感じにリナの下半身に手を伸ばそうとする。

 リナはもう魔女のされるがままだ。


 やばい!

 このままだと本当に取り返しがつかなくってしまう!!


 その時の僕は、リナのあられもない姿を見てすっかり逆上していた。

 魔法を使うことすら忘れ、とにかく一刻も早く、たとえ魔女を傷つけ殺してでもリナを奪い返すつもりになっていた。


「リナを放せ! さもなくば――」

 僕はそう言って、ほとんど無意識のうちに腰のショートソードを抜いた。


「――へえ、ワタシを殺るというのかい?」

 

 そこでようやく魔女が僕の方を向いた。

 が、こんなに近くに迫っても、魔女の素顔はフードの奥に隠れてまったく見えない。


「まったくうるさいハエだこと。せっかくお前に王女がちる姿を見せてやろうと思ったのに」


「ふ、ふざけるな!」


「お前は王女の馬に乗っていた護衛の魔術師か。若いのにそこそこ魔法は使えるようだが――」


 この魔女……。

 リナにうつつをぬかし、僕のことなど眼中にないと思っていたが、そんなことはなかった。


 僕が白魔法でアンデッドと戦う様子だけは、しっかり見ていたのだ。

 まったく油断ならない相手だ。


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