(4)

「え?」

 レーモンが何を言っているのか、一瞬分からなかった。


「お前の魔法の力はこの先々アリス様、それにロードラント王国のため必ずや必要になる。――おい!」


 いつの間にか、竜騎士二人が僕の背後に回っていた。

 彼らは僕の腕をグイッとひねり上げ、手首に縄をかけ始めた。


「痛! ちょっと――止めてください!」


 何と抵抗しようとしたが、逆に縄を強く締め上げられてしまう。

 ガチガチの拘束だ。


「魔法を唱えられと厄介だな。すまぬが口も塞がせてもらうぞ」


 レーモンはさらに、僕にも猿ぐつわをはめようとする。

 顔をぶるぶる振って悪あがきしたけれど、無駄だった。


「暴れると舌を噛むぞ」

 レーモンはそう言いながら、僕の口に布を噛ませ、頭の後ろできゅっと結んだ。


 く、苦しい。


 猿ぐつわなんてされたの生まれて初めてだ。

 本当に何も言葉を発することができない。


 しかしこの手際の良さ――

 レーモンたちはずっと、この場からアリスだけを逃がす機会を狙っていたに違いない。 


「安全な場所に行ったら、縄はリナにほどいてもらえ。――リナ! なにをぐずぐずしておる! 早くこちらへ参れ!」

 と、レーモンがリナを呼びつける。


 リナは悲しそうな顔をして、僕のそばに来て言った。


「ごめんなさい、ユウトさん。アリス様をお守りするため、こらえて下さい……」


 リナもレーモン側の人間だったのか――

 僕が非難の目を向けると、リナは顔を背けてしまった。


 もちろん彼女に悪意はないだろう。

 すべてはアリスのためを思ってしたことなのだから。


 が、信じていた人の裏切られた衝撃は限りなく大きい。

 失望のあまり、僕は全身の力が急速に抜けていくのを感じた。




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