第七章 死闘

(1)

 残っていた重症者数人の治癒を急いで終えた。

 アリスからもらった護身用のショートソードを腰に差し、いよいよ出発だ。


「ユウトさん、しっかりつかまって下さい。でないと振り落とされてしまいますよ」


 差し伸べられたリナの手につかまり、馬上に引き上げてもらう。

 馬には二人分のくらあぶみが付いている。


 リナのうしろに乗り、鞍にまたがり鐙に足をかけると、ぐらついていた体勢がかなり安定した。

 乗馬は初めてだけれど、これならいけそうだ。


「さあ、私の腰に手をまわしてください」


 ちょっとドキドキしながら、リナの腰に手を回しぎゅっと抱きしめる。

 しなやかな感触。

 そして、なんだかとても良い香り。


 ふと、脳裏に過去の記憶がよみがえった。

 この香りは昔どこかでかいだことがある。


 そうだ、思い出した!

 まだ幼いころ、現実世界の理奈と二人で寄り添い遊んだ時の香りだ。


 思えばあの頃は毎日が楽しかった。

 悩みなんてなにもなかった、永遠に戻ってこない幸せな時間。

 それがいったいどうしてこんな事に……。


 いやいや!

 と、頭をぶるぶる振る。


 なに感傷に浸っているんだ。

 我ながらきもい! きもすぎる!

 今、この状況で、そんな昔のこと思い出すなんてどうかしている。


「ユウトさんごめんなさい。ちょっと苦しい……」


「あ、す、すみません」


 慌てて手を緩める。 

 いつの間にか、リナの腰を強く抱きしめていたのだ。


 どうしたんだ?

 一度は死ぬ覚悟までしたのに、やっぱり本能的に恐怖を感じているのか?


 いや、そんなことはない!

 むしろ自分はどうなったっていい。

 ただリナを、そしてアリスを救えればそれで充分なんだ。




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