(24)

「ありがとうございます、アリス様」

 エリックが『オーク殺し』を鞘に納めて言った。

「ハイオークの前に出たら、竜騎士様に敵の注意を逸らしていただきたい。その間に私がハイオークに跳び移り、体をよじ乗って脳天にこの短剣を突き刺してご覧にいれます」


「そんな曲芸のようなこと、本当にできるのか?」


「ええ、必ずやり遂げてみせますよ。なにせこの『オーク殺し』をもってしてもハイオークの鎧や、硬い皮膚を貫くことはできませんから、どうしても奴の急所を狙う必要があるんです」


 身長が七メートルはあるハイオークに取りつき、頭に短剣を突き立てる――

 いかにエリックの身体能力が優れていても、それはかなり難しいアクションではないだろうか?

 当然、ハイオークは暴れまくるだろうし……。


 ――そうだ! 

 それよりいい方法がある。

 魔法だ。あの魔法を使うのだ。


「あの……」

 僕は思い切って申し出た。

「私が魔法でエリックを助けます。『リープ』の魔法を使うんです」


「『リープ』? それはどんな魔法だ?」

 と、アリスが訊く。


「はい。『リープ』は人を瞬間的に高く跳躍ちょうやくさせる魔法です」


 本来『リープ』は山地やダンジョンなど、高低差のある場所で使う移動用の魔法だ。

 でも、もちろんどこだって使えるはず。


「私がエリックに同行し、敵の寸前で『リープ』を使ってエリックを高く飛ばすのです」 


「なるほど。奇襲で飛び込んでいきなり奴の頭を狙うのか」


「アリス様のおっしゃる通りです」

 僕はうなずいて言った。

「ハイオークもそのような動きは予想しないでしょうから、成功する確率は高いかと思います」


「いや、ダメだダメだ」

 エリックが頭を横に振る。

「それじゃあお前が危険すぎる。敵の包囲を突破した上でハイオークとも戦うんだぞ。ろくに戦闘経験もないお前じゃ無理だ」


「確かに私には経験はありません。でも魔法は使えます」


 自分の身一つなら魔法で守れる。

 それぐらいの自信はもうついてきていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る