(11)

 食事を終えた兵士たちは、めいめい談笑したり、キセルタバコを吸ったりして自由にくつろいでいる。

 エリックも、配給された食べ物すべてを平らげてから、キセルを取出し火をつけた。


「しかし解せねえな」

 と、エリックが煙を吐き出しながらつぶやく。


「なにが?」


「いや、今回の反乱のことだよ。イーザはここら辺で遊牧生活してる少数民族で、ロードラントとファリア両国に毎年税を納める代わりに自治権を得てるんだ。で、今まではそれでうまいこといっていた。


 なのになんでこのタイミングで蜂起したのかって思ってな。やつらは馬の扱いに長けててかなり強いらしいが、それでも勝負は最初から目に見えてるからな」


「よっぽど税金が重かったとか」


「そうかもしれねえが、俺はどうも裏でゴートの奴らが糸を引いてるような気がするんだよな」


「ゴート? 何、ゴートって」


「おまえ……」

 エリックが絶句した。

「それすら知らないの?」  


「うん」


「あのなあ、ゴートはロードラント王国の東にある大帝国だよ。最近はグラン=ゴート帝国を名乗っていて、実際、このアリスティア大陸では随一ずいいちの国力を誇っているんだ」


 この異世界――アリスティア大陸という場所なのか。

 たまたまなのか、アリス王女と似た名前だ。 


 そしてゴート帝国。

 いかにも強そうな名前だけれど、いったいどんな国なのだろう。


「いいか、アリスティア大陸の東にあるゴート帝国、中央にあるのが我がロードラント王国、そして西にあるのがファリア共和国。

 この三大国家が、長年アリスティアの覇権を争っているんだ。ゴートがイーザ族を焚き付けて反乱を起こさせるなんて小細工、十分考えられることだ」


「なるほど、そうなんだ」


「ゴート帝国は強いといっても、ロードラントとファリアの同盟にはかなり手を焼いているからな。どんな汚い手を使ってきても不思議じゃねえよ」


「すごく勉強になった。ありがとう。エリックは本当に物知りだね」


「んなこない。おまえが知らなさすぎるんだよ」


 エリックはやれやれ、と首を振ったその時、どこからか「キャア」という悲鳴が聞こえた。

 リナの声だ。


「マリアさん、しっかりして」


 そちらを見ると、リナはぐったりしたシスターマリアを抱きかかえていた。


 彼女たちにいったい何があったのか――?


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