(8)

「アリス様、叔父様――」

 見兼ねたリナが仲裁に入った。

「こうしたらいかかでしょう。とりあえずティルファを馬車に運び、そこでマリアさんに治療をしてもらいながら、軍をコノートまで引かせるのです」


「リナ様、お言葉ですがそれは――」

 ティルファに寄り添っていたマリアが立ち上がって言った。

「治癒魔法は精神の集中を要しますゆえ、揺れる馬車の中で行うことはとても無理です。それにティルファ様の出血が多すぎます。無理に動かしさらに血を失えば、それだけでわずかに残る命のともしびはついえてしまうでしょう」


 アリスはうなずいて言った。


「では議論の余地はないな。――マリア、この場で治療を始めてくれ」


「かしこまりました。アリス様の仰せのままに」


 マリアは深く一礼すると、再びティルファの側に膝をついた。

 そして両手を突き出し、目をつぶって静かに『リカバー』と詠唱する。


 するとどうだろう。

 マリアの手のひらから暖かく優しい光が発せられ、ティルファの身体を包み込んだではないか。

 すぐにティルファの呼吸が穏やかになり、傷口からの出血も治まってきた。


「おお!!」


 様子を見ていた兵士たちがどよめく。

 これがいわゆる治癒魔法か。

 ゲームの中だけのものと思っていた魔法を実際目の当たりにして、僕はただただ驚くしかなかった。  


 だが――


 待てよ?

 セリカが言ったことが本当なら、自分も当然この魔法が使えるはずではないか?


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